2009年6月1日
[ 国内知財情報 ]
進歩性について (2)本件発明の要旨認定~一致点・相違点の認定
前回の投稿では、進歩性の判断手順について、その概要を説明しました。今回は、各手順の詳細について説明したいと思います。
1 本件発明の要旨認定[S1]
本件発明の要旨(技術的内容)を、特許請求の範囲の記載に基づき認定します。
本件発明の要旨認定は、いわゆるリパーゼ判決(※1)以降、特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないなどの特段の事情がない限り、特許請求の範囲の記載に基づいて行うこととされています。
(※1)リパーゼ判決(最高裁平成3年3月8日判決・昭和62年(行ツ)第3号審決取消事件)
「特許法29条1項及び2項所定の特許要件、すなわち、特許出願に係る発明の新規性及び進歩性について審理するに当っては、この発明を同条1項各号所定の発明と対比する前提として、特許出願に係る発明の要旨が認定されなければならないところ、この要旨認定は、特段の事情のない限り、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは、一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない。」
つまり、本件発明の内容は、原則として特許請求の範囲の記載のみから判断されることになります。したがって、発明の内容が明細書(実施例)や図面に明確に示されていても、それが特許請求の範囲の記載に十分に反映されていなければ、いかに優れた発明であっても進歩性なしと判断されてしまうことになります。特許請求の範囲の記載は、権利範囲を広くしようとするために抽象的で不明確な表現になりがちですが、発明の要旨が適正に認定されるようにするためには、その特徴をできるだけ明確に表現することが重要となります。
2 引用発明の要旨認定[S2]
本件発明と対比する一の引用発明の要旨を認定します。
引用発明とは、特許法第29条第1項各号に掲げる発明として引用する発明のことです。
具体的には、本件発明に係る特許出願前に日本国内又は外国において、
・公然知られた発明(1号)
・公然実施をされた発明(2号)
・頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(3号)
が引用発明となり得ます。実務上は、刊行物(特に、公開公報などの特許公報)に記載された発明が引用発明となることがほとんどです。
刊行物に記載された発明は、刊行物に記載されている事項から認定します。また、刊行物に記載されている事項だけでなく、本件発明に係る特許出願時における技術常識(※2)を参酌することにより導き出せる事項も認定の基礎とすることができます。
(※2)技術常識とは、当業者に一般的に知られている技術(周知技術、慣用技術を含む)又は経験則から明らかな事項のことをいいます。なお、「周知技術」とは、その技術分野において一般的に知られている技術であって、例えば、これに関し、相当多数の公知文献が存在し、又は業界に知れわたり、あるいは、例示する必要がない程よく知られている技術のことをいい、また、「慣用技術」とは、周知技術であって、かつ、よく用いられている技術のことをいいます。
3 本件発明と引用発明との一致点及び相違点の認定[S3]
本件発明を構成要件に分説し、引用発明の内容を本件発明の構成要件に対応させることで、これらの一致点及び相違点を認定します。
例えば、本件発明が構成要件A+B+Cに分説され、引用発明がA+Bである場合、
一致点はA+B
相違点はC
ということになります。
ちなみに、この例で引用発明がA+B+Cであれば、本件発明と引用発明とに相違点がありませんので、新規性なしということになります。
以上のように本件発明と引用発明との一致点及び相違点を明らかにした後、相違点の検討(進歩性判断の論理づけ)を行います。
なお、残りの手順の詳細については後日掲載する予定です。
弁理士 竹中謙史