新着情報

ホーム > 新着情報 > 新着情報(2020年以前) > 進歩性について (2)本件発明の要旨認定~一致点・相違点の認定


進歩性について (2)本件発明の要旨認定~一致点・相違点の認定

前回の投稿では、進歩性の判断手順について、その概要を説明しました。今回は、各手順の詳細について説明したいと思います。

1 本件発明の要旨認定[S1]
 本件発明の要旨(技術的内容)を、特許請求の範囲の記載に基づき認定します。

 本件発明の要旨認定は、いわゆるリパーゼ判決(※1)以降、特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないなどの特段の事情がない限り、特許請求の範囲の記載に基づいて行うこととされています。

(※1)リパーゼ判決(最高裁平成3年3月8日判決・昭和62年(行ツ)第3号審決取消事件)
「特許法29条1項及び2項所定の特許要件、すなわち、特許出願に係る発明の新規性及び進歩性について審理するに当っては、この発明を同条1項各号所定の発明と対比する前提として、特許出願に係る発明の要旨が認定されなければならないところ、この要旨認定は、特段の事情のない限り、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは、一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない。」


 つまり、本件発明の内容は、原則として特許請求の範囲の記載のみから判断されることになります。したがって、発明の内容が明細書(実施例)や図面に明確に示されていても、それが特許請求の範囲の記載に十分に反映されていなければ、いかに優れた発明であっても進歩性なしと判断されてしまうことになります。特許請求の範囲の記載は、権利範囲を広くしようとするために抽象的で不明確な表現になりがちですが、発明の要旨が適正に認定されるようにするためには、その特徴をできるだけ明確に表現することが重要となります。

2 引用発明の要旨認定[S2]
 本件発明と対比する一の引用発明の要旨を認定します。

 引用発明とは、特許法第29条第1項各号に掲げる発明として引用する発明のことです。
 具体的には、本件発明に係る特許出願前に日本国内又は外国において、
・公然知られた発明(1号)
・公然実施をされた発明(2号)
・頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(3号)
が引用発明となり得ます。実務上は、刊行物(特に、公開公報などの特許公報)に記載された発明が引用発明となることがほとんどです。

 刊行物に記載された発明は、刊行物に記載されている事項から認定します。また、刊行物に記載されている事項だけでなく、本件発明に係る特許出願時における技術常識(※2)を参酌することにより導き出せる事項も認定の基礎とすることができます。

(※2)技術常識とは、当業者に一般的に知られている技術(周知技術、慣用技術を含む)又は経験則から明らかな事項のことをいいます。なお、「周知技術」とは、その技術分野において一般的に知られている技術であって、例えば、これに関し、相当多数の公知文献が存在し、又は業界に知れわたり、あるいは、例示する必要がない程よく知られている技術のことをいい、また、「慣用技術」とは、周知技術であって、かつ、よく用いられている技術のことをいいます。

3 本件発明と引用発明との一致点及び相違点の認定[S3]
 本件発明を構成要件に分説し、引用発明の内容を本件発明の構成要件に対応させることで、これらの一致点及び相違点を認定します。

 例えば、本件発明が構成要件A+B+Cに分説され、引用発明がA+Bである場合、
 一致点はA+B
 相違点はC
ということになります。

 ちなみに、この例で引用発明がA+B+Cであれば、本件発明と引用発明とに相違点がありませんので、新規性なしということになります。

 以上のように本件発明と引用発明との一致点及び相違点を明らかにした後、相違点の検討(進歩性判断の論理づけ)を行います。

 なお、残りの手順の詳細については後日掲載する予定です。


弁理士 竹中謙史

国内知財情報

2021年11月26日 機能的クレームについての技術的範囲の解釈
2021年11月16日 特許審査の進歩性判断における阻害要因について
2021年10月7日 機能で特定した抗体の発明は、特許を受けることができるか?
2021年8月24日 パリ条約に基づく部分優先の判断手法が示された裁判例の紹介
2021年6月22日 改正法情報 -権利の回復要件の緩和-
2021年6月4日 特許権等の侵害訴訟における第三者意見募集制度の導入
2021年5月25日 岐阜県内中小企業の特許・実用新案・意匠・商標の外国出願助成金(令和3年度募集)
2021年5月25日 愛知県内中小企業の特許・実用新案・意匠・商標の外国出願助成金(令和3年度募集)
2021年4月23日 特許法等の改正案が閣議決定
2021年4月13日 審査官とのオンライン面接を活用しましょう
2021年3月30日 進歩性における「有利な効果」の判断基準が明確化!
2021年1月26日 特許庁への手続きにおける「押印廃止の範囲拡大」のお知らせ
2019年6月11日 特許法等の一部を改正する法律(令和元年5月17日法律第3号)の公布について
2019年3月7日 新たな特許料等の減免制度について(審査請求料・特許料(第1年分~第10年分))
2019年1月16日 出願審査請求料改正のお知らせ(2019年4月1日施行)
2018年5月31日 法改正(2018年6月9日施行)
2018年5月16日 東海地方の中小企業を対象とする外国出願補助金のご紹介
2018年2月15日 「特許戦略ポータルサイト」~「自己分析用データ」提供サービスのご紹介~
2016年6月14日 平成28年度中小企業知的財産活動支援事業費補助金(中小企業等外国出願支援事業)
2016年4月5日 プロダクト・バイ・プロセス・クレームの「物」の発明から「物を生産する方法」の発明へのカテゴリー変更を含む訂正審判事件の審決について
2016年4月1日 研究論文だけで簡易な特許出願ができます
2016年2月1日 食品の用途発明に関する審査の取扱いについて
2016年1月29日 特許料等の料金改定について(平成28年4月1日施行)
2015年8月10日 プロダクト・バイ・プロセス・クレームの訂正手続について
2015年3月27日 特許異議申し立て制度に関して
2014年5月28日 外国出願にかかる費用の半額補助(中部管内の実施状況)
2014年5月24日 特許法等の一部を改正する法律(平成26年5月14日法律第36号)の公布について
2014年5月23日 平成26年度中小企業知的財産活動支援事業費補助金(中小企業外国出願支援事業)
2014年5月16日 日本貿易振興機構(JETRO) 海外における知的財産権の侵害調査および権利行使(中小企業海外侵害対策支援事 業)
2014年4月1日 前置報告を利用した審尋の運用変更について
2014年2月25日 東京都知的財産総合センター 「平成26年度 第1回知的財産に関する助成事業説明会のご案内」
2014年2月21日 中小企業・小規模事業者ものづくり・商業・サービス革新事業 (新ものづくり補助金)
2014年1月16日 中小・ベンチャー企業、小規模企業の特許料が約1/3 に!!
2013年12月28日 産業競争力強化法に基づく特許料等の軽減措置について
2013年11月22日 中小企業の特許庁手数料
2013年10月4日 知的財産権を利用したローン
2013年9月18日 科学技術振興機構  A-STEP:第三回公募(【FSステージ】シーズ顕在化タイプ)及び応募相談会
2013年9月16日 経済産業省:営業秘密 ~営業秘密を守り活用する~
2013年8月21日 平成25年度 第2回 知的財産に関する助成事業説明会のご案内 東京都知的財産総合センター
2013年7月18日 岐阜県内中小企業の外国出願(特許、実用新案、意匠、商標)支援事業 ~二次募集のご案内~
2013年7月18日 愛知県内中小企業の特許・実用新案・意匠・商標の外国出願助成金(平成25年度第2回募集)
2013年4月25日 愛知県内中小企業の特許・実用新案・意匠・商標の外国出願助成金
2012年7月23日 特許料等の減免制度
2012年4月16日 登録となった特許を活用するために
2012年1月25日 意匠登録料の改定(値下げ)について
2012年1月17日 審査請求料の納付繰延制度の終了について
2011年10月13日 著作権者の承諾を得なくても著作物を利用できる場合について
2011年10月6日 著作権判例紹介:ときめきメモリアル事件、三国志III事件
2011年9月30日 「明細書及び特許請求の範囲の記載要件(36条)」の審査基準改訂
2011年8月9日 著作権判例紹介:ロクラクII事件
2011年7月8日 出願審査請求料改正のお知らせ
2011年7月4日 著作権判例紹介:まねきTV事件
2011年1月20日 中小企業等特許先行技術調査事業(※今年度で終了)
2010年10月15日 平成22年度(予備費事業)戦略的基盤技術高度化支援事業の公募についてのお知らせ
2010年9月17日 新技術開発助成のお知らせ(財団法人新技術開発財団)/募集期間:10月1日~10月20日
2010年9月1日 ヒット商品に見る知的財産権シリーズ(商標)
2010年6月22日 パラメータ特許のサポート要件に関する裁判例(第10回)
2010年6月18日 新規性喪失の例外の適用について
2010年6月15日 外国出願の補助金
2010年5月28日 愛知県海外特許等取得・知的財産活用促進事業費について
2010年5月14日 ヒット商品に見る知的財産権シリーズ(意匠2)
2010年4月20日 著作権の移転登録について
2010年4月16日 ヒット商品に見る知的財産権シリーズ(意匠1)
2010年4月13日 著作物の利用について
2010年3月19日 ヒット商品に見る知的財産権シリーズ(特許6)
2010年3月12日 パラメータ特許のサポート要件に関する裁判例(第9回)
2010年2月26日 『進歩性』のケーススタディの公開
2010年2月23日 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権などの知的財産権の侵害品
2010年2月16日 進歩性について (7) 最近の裁判例(平成21年(行ケ)第10265号)
2010年2月9日 特許・実用新案審査基準HTML版の有用活用
2010年1月19日 進歩性について (6) 最近の裁判例(平成21年(行ケ)第10080号)
2010年1月12日 パラメータ特許のサポート要件に関する裁判例(第8回)
2009年12月16日 特許活用企業事例集の紹介
2009年12月8日 進歩性について (5) 最近の裁判例(平成20年(行ケ)第10096号)
2009年11月24日 パラメータ特許のサポート要件に関する裁判例(第7回)
2009年11月20日 歴史上の人物名からなる商標登録出願の取扱いについて~審査便覧が改訂されました~
2009年11月16日 早期審査の事例紹介
2009年11月9日 ヒット商品に見る知的財産権シリーズ(特許5)
2009年11月5日 「産業上利用することができる発明」、「医薬発明」の改訂について
2009年11月3日 早期権利化のための制度紹介(グリーン早期審査)
2009年11月2日 進歩性について (4) 近年の進歩性判断基準の傾向
2009年10月29日 2009年度休日パテントセミナーin名古屋のご報告
2009年10月22日 ヒット商品に見る知的財産権シリーズ(特許4)
2009年10月14日 特許等の出願費用に対する資金的支援制度の紹介(第2回目)
2009年10月8日 ヒット商品に見る知的財産権シリーズ(特許3)
2009年10月2日 早期権利化のための制度紹介(特許出願におけるその他の制度)
2009年9月24日 ヒット商品に見る知的財産権シリーズ(特許2)
2009年9月18日 知的財産戦略を実行するメリット、持たない場合のデメリット
2009年9月9日 ヒット商品に見る知的財産権シリーズ(特許1)
2009年9月1日 特許侵害を主張する外資系企業との交渉について
2009年8月21日 早期権利化のための制度紹介(特許出願における面接制度)
2009年8月18日 シフト補正の禁止 国内優先権主張出願の場合の適用について
2009年8月15日 「特許戦略ポータルサイト」の紹介
2009年8月10日 特許権行使の戦略的な意味について
2009年8月7日 特許等の出願費用に対する資金的支援制度の紹介(第1回目)
2009年8月4日 パラメータ特許のサポート要件に関する裁判例(第6回)
2009年7月16日 設計事項について
2009年7月13日 不正競争を根拠とする商品等表示の差止が認められた事例
2009年7月10日 早期権利化のための制度紹介(特許における早期審査制度)
2009年7月7日 パラメータ特許のサポート要件に関する裁判例(第5回)
2009年7月1日 進歩性について (3)相違点に関する容易性の判断
2009年6月15日 拒絶理由通知について
2009年6月4日 他社に製品のデザインを真似されたら~意匠登録がない場合
2009年6月1日 進歩性について (2)本件発明の要旨認定~一致点・相違点の認定
2009年5月29日 パラメータ特許のサポート要件に関する裁判例(第4回)
2009年5月11日 進歩性について (1)判断手順
2009年5月7日 審査請求料返還制度のご紹介
2009年4月28日 パラメータ特許のサポート要件に関する裁判例(第3回)
2009年4月13日 中小企業等特許先行技術調査事業のご紹介
2009年4月9日 ソフトウエア特許について知財高裁が第一審の判断を取り消し認容判決(知財高裁平成21年2月18日(平成20年(ネ)第10065号))
2009年4月6日 審査請求料の納付繰延制度
2009年3月30日 パラメータ特許のサポート要件に関する裁判例(第2回)
2009年3月26日 「特許検索ポータルサイト」の紹介
2009年3月20日 分割出願可能な時期について:改正法情報
2009年3月16日 特許出願技術動向の調査の活用
2009年3月12日 プログラムが「著作物」と認められない場合について
2009年3月6日 日本において全体意匠出願の後に部分意匠出願する場合の注意点
2009年2月27日 パラメータ特許のサポート要件に関する裁判例(第1回)
2009年2月6日 微生物の寄託について
2009年2月4日 早期権利化のための制度紹介(早期審査、早期審理、面接、他)
2009年1月13日 平成20年法律改正(平成20年法律第16号)解説書について
2009年1月5日 特許・実用新案の出願様式の変更についての詳細情報
2008年12月23日 特許・実用新案の出願様式の変更

ページの先頭に戻る

ホーム > 新着情報 > 新着情報(2020年以前) > 進歩性について (2)本件発明の要旨認定~一致点・相違点の認定