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特許権等の侵害訴訟における第三者意見募集制度の導入

はじめに


特許法、実用新案法、意匠法、及び商標法の改正案が2021年5月14日に可決・成立し、5月21日に公布されました(施行期日:公布日から1年以内の政令で定める日)。

特許法等の一部を改正する法律(令和3年5月21日法律第42号)

今回は、この改正法における主な改正項目のうち、特許権等の侵害訴訟における第三者意見募集制度について、さらに詳細を紹介します。


制度導入の背景


米国では、裁判所が、当事者及び参加人以外の第三者から意見や資料の提出を受ける、アミカスブリーフ制度が設けられています。英国でも、同様の制度が設けられています。
米国の最高裁判所規則(Rule 37)によれば、所定のタイミングで、両当事者の書面による同意を得ることで、アミカスキュリエ(amicus curiae)(※1)がアミカスブリーフ(amicus brief)(※2)を提出できることが規定されています。また、当事者の同意が無い場合であっても、裁判所からの要求・許可があった場合、アミカスブリーフの提出が許容される場合があります。
また、米国の連邦控訴手続規則(Rule 29)、及び連邦巡回控訴裁判所規則(Rule 29)においても、原則当事者の書面による同意又は裁判所の許可を得ればアミカスキュリエはアミカスブリーフを提出することが可能である旨が規定されています。

(※1) アミカスキュリエ:ラテン語で「法廷の友人」の意。裁判所に情報又は意見を提出する第三者のことをいう。
(※2) アミカスブリーフ:第三者から裁判所に提出される意見や資料のこと。

これに対して、日本で従前より法律上の制度として設けられていたものは、裁判所が技術の専門家等の限られた対象に意見を求めるものであって、広く一般から意見を求めるものではありませんでした。
しかしながら、アップル対サムスン訴訟(知財高判平成26年5月16日(平成25年(ネ)第10043号))においては、当時の現行法の枠組み内で、第三者から意見を募集する試みが行われました。その法廷判断の影響力の大きさを鑑みたものであり、日本の民事訴訟における初めての試みでした。その結果、国内外から多数の意見が寄せられ、裁判所が広い視野に立って適正な判断を行うために、第三者から意見を募集することが有益であることが示されることとなりました。
近年のAI・IoT技術の進展に伴って、特許権等に関する訴訟は、これまで以上に高度化・複雑化することが想定されます。このような状況においては、アップル対サムスン訴訟のように、裁判所が幅広く意見を募集することが好ましい事案も生じ得ると考えられます。その際、現行法の枠組み内での意見募集では、例えば当事者双方の同意を得なければならないなど、制限が生じてしまう懸念があります。
これらを鑑みて、今般の改正法において、裁判所が必要と認めるときに第三者から意見を募集することができる第三者意見募集制度(日本版アミカスブリーフ制度)が盛り込まれました。


制度の概要


下表のとおり、第三者意見募集制度は、当事者による証拠収集手続きの特例という位置付けとされています。このため、当事者の申立てにより制度の利用が図られることとなっています。
第三者が提出可能な意見の内容については、特に制限は設けられない見込みです。ただし、日本における民事訴訟の原則である弁論主義(※3)に鑑みて、第三者から提出された意見や資料については、その全てが判断の基礎とされるのではなく、当事者が書証として裁判所に提出した書類(以下、「意見書」)のみが判断の基礎とされる見込みです。この、弁論主義に鑑み、“当事者が書証として提出した意見書”のみが判断の基礎とされる点が、米国の制度等と比較して大きく異なる点です。
第三者意見募集制度は、まずは特許権・実用新案権・これらの専用実施権に係る侵害訴訟のみに導入されることとなりました。なお、必要に応じて適用範囲を拡大することも想定されています。

(※3) 弁論主義:判決の基礎となる事実に関する資料の収集・提出は当事者の権能・責任であるとする原則。

第三者意見募集制度
制度の位置付け当事者による証拠収集手続き
対象の事件特許権・実用新案権・これらの専用実施権に係る侵害訴訟
対象の審級第一審 : 東京地方裁判所・大阪地方裁判所
控訴審 : 知的財産高等裁判所
意見書を提出できる者限定しない
(広く一般に対して意見を求める)
要件① 一方当事者の申立て
② 裁判所が必要と認める
③ 他方当事者の意見聴取
求める意見の内容事件に関する特許法・実用新案法の運用その他の必要な事項であって、
裁判所が必要と認めた事項
意見書の取扱い当事者は、必要と認める意見書を謄写し、書証として裁判所に提出する。
裁判所は、書証として提出された意見書を判断の基礎とできる。


実務上の運用見込み


第三者意見募集制度の施行後の実務としては、当該第三者から意見の内容について弁護士・弁理士が相談を受けたうえで意見書を作成する運用が予想されます。この点に関し、弁理士が意見の内容についての相談を受けられるようにするため、特許法等の改正に併せて弁理士法も改正されました。


さいごに


第三者意見募集制度により、裁判所による判断の精度が高められ得ることが期待されます。施行後、実際にどのように活用されていくか、引き続き動向を注視していく必要があります。


弁理士:岩附紘子

国内知財情報

2021年11月26日 機能的クレームについての技術的範囲の解釈
2021年11月16日 特許審査の進歩性判断における阻害要因について
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2021年8月24日 パリ条約に基づく部分優先の判断手法が示された裁判例の紹介
2021年6月22日 改正法情報 -権利の回復要件の緩和-
2021年6月4日 特許権等の侵害訴訟における第三者意見募集制度の導入
2021年5月25日 岐阜県内中小企業の特許・実用新案・意匠・商標の外国出願助成金(令和3年度募集)
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2014年5月24日 特許法等の一部を改正する法律(平成26年5月14日法律第36号)の公布について
2014年5月23日 平成26年度中小企業知的財産活動支援事業費補助金(中小企業外国出願支援事業)
2014年5月16日 日本貿易振興機構(JETRO) 海外における知的財産権の侵害調査および権利行使(中小企業海外侵害対策支援事 業)
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2009年10月29日 2009年度休日パテントセミナーin名古屋のご報告
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2009年8月18日 シフト補正の禁止 国内優先権主張出願の場合の適用について
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2009年8月10日 特許権行使の戦略的な意味について
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2009年7月16日 設計事項について
2009年7月13日 不正競争を根拠とする商品等表示の差止が認められた事例
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2009年6月4日 他社に製品のデザインを真似されたら~意匠登録がない場合
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2009年5月29日 パラメータ特許のサポート要件に関する裁判例(第4回)
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2009年5月7日 審査請求料返還制度のご紹介
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2009年4月13日 中小企業等特許先行技術調査事業のご紹介
2009年4月9日 ソフトウエア特許について知財高裁が第一審の判断を取り消し認容判決(知財高裁平成21年2月18日(平成20年(ネ)第10065号))
2009年4月6日 審査請求料の納付繰延制度
2009年3月30日 パラメータ特許のサポート要件に関する裁判例(第2回)
2009年3月26日 「特許検索ポータルサイト」の紹介
2009年3月20日 分割出願可能な時期について:改正法情報
2009年3月16日 特許出願技術動向の調査の活用
2009年3月12日 プログラムが「著作物」と認められない場合について
2009年3月6日 日本において全体意匠出願の後に部分意匠出願する場合の注意点
2009年2月27日 パラメータ特許のサポート要件に関する裁判例(第1回)
2009年2月6日 微生物の寄託について
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2009年1月13日 平成20年法律改正(平成20年法律第16号)解説書について
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