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著作権判例紹介:ときめきメモリアル事件、三国志III事件

 著作権法上の同一性保持権(著作権法第20条)の侵害か否かが争われた2件の事件を紹介します。一方は侵害が認定され、他方は侵害が否定されました。

1.ときめきメモリアル事件
  同一性保持権の侵害を認定

2.三国志III事件
  同一性保持権の侵害を否定

事件の概要等は以下を参照ください。

ときめきメモリアル事件(H13.2.13)三国志III能力値付加事件(H11.3.18)
事件の概要■当事者
X(原告):コンピュータゲームソフトについて著作者人格権を有する。
Y(被告):ゲームソフト用のパラメータを収めるメモリカードを輸入・販売。
■当事者
X(原告):三国志IIIを販売。
Y(被告):三国志III非公式ガイドブックを販売。データ登録用プログラム(Yプログラム)を含む。
■恋愛シミュレーションゲーム
・プレイヤーが架空の高等学校の生徒となって、卒業式の当日、憧れの女生徒から告白を受けることを目指して自らの能力を高めていく。
・9種の表パラメータ、3種の隠しパラメータが存在する。
・初期設定の能力値からスタートし、これを向上させていく。
・最終的に到達したパラメータの数値により女生徒から告白を受けることができるか否かが決定される。
■歴史シミュレーションゲーム
・登場人物の能力が六つの要素に分類され、1~100の範囲で能力値が設定される。
・ユーザは、本件著作物中のデータ登録用プログラム(Xプログラム)を用い、登場人物を新たに作り出して、能力値を、六つの要素毎に、1~100の範囲で設定可能。
・各登場人物の能力値等を基に、場面が展開する。
・Yのメモリカードには、プレイヤーの操作のみでは到達し得ない高い数値のパラメータが設定されていた。
・本来は登場し得ない女生徒が登場する、ゲームスタート時点が卒業間近に飛ぶ。プレイしなくても、告白を受けることができる。
・Yプログラムを用いれば、ユーザは、100を超える能力値を設定することが可能。
判旨同一性保持件の侵害認定同一性保持件の侵害否定
・パラメータはそれによって主人公の人物像を表現し、その変化に応じてストーリーが展開する。
・メモリカードの使用により、パラメータによって表現される主人公の人物像が改変され、その結果、ストーリーが本来予定された範囲を超えて展開される。
・能力値が、Xプログラムによるものを超えて設定されてメインプログラムに渡された場合のゲームの展開により、ストーリーがどのように具体的に改変されるに至るかの事実関係は明らかでない。


[考察]

(A)両事件の共通点
 両事件で共通する点は、プログラムを書き換えて登場人物の能力値(パラメータ)を変更している点です。なお、プログラムとは、一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの、と定義付けることができます。

(B)プログラムの著作物の観点から
 プログラムも著作物たり得るものであり、そうであるならば、両事件におけるプログラムの書き換えは、著作物たるプログラムの改変に当たると考えられなくもありません。
 しかしながら、三国志III事件では、被告の行為につき「プログラムの著作物」の改変には当たらないと認定されました。
 三国志III事件では、書き換えの対象はプログラムというよりもパラメータを格納するデータ・ファイルであり、データ・ファイル自体はプログラムではないと裁判所は認定したと思われます。換言すれば、裁判所は、ゲームソフトウェアを、プログラム部分と、各プログラムによって処理されるデータ部分とに明確に切り分け、データ部分(データ・ファイルはデータ部分に相当)について著作物性を否定した(データ部分の改変を同一性保持権の侵害と認めなかった)、とも考えられます。
 なお、ときめきメモリアル事件では、このような部分につき特に触れられていません。

(C)両事件の結論の相違について
 さらに、三国志III事件において、裁判所は、能力値の変更により本件ゲームの展開(ストーリー)が具体的にどのように改変されるかについて明らかでない、として、著作物の改変行為(同一性保持権の侵害)を否定しました。ここで、「著作物」と言ったときには、「プログラムの著作物」、「映画の著作物」、「ゲームの著作物」(原告が主張)、等の種類が考えられます。
 「プログラムの著作物」の改変に当たるか否かについては、前述のように裁判所は否定しました。
 「映画の著作物」の改変に当たるか否かにつき、裁判所は、ここでいう「著作物」は「映画の著作物」ではないとしました。具体的には、本件ゲームにつき、「静止画が圧倒的に多く、しかも定型データを用いて同じ内容の定型的な画像及び効果音が現れるにとどまり、本件ゲームが、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されているものと認められず、本件著作物が、映画ないしこれに類する著作物に該当するということはできない。」と判示しました。これは、本件著作物には映画のようなストーリー性がないという認定である、とも言えます。
 原告が主張した「ゲームの著作物」については、著作権法にゲームの著作物そのものを定義付ける規定はないとして否定しました。
 結局、三国志III事件では「著作物」の改変は認定されませんでした。 

 これに対し、ときめきメモリアル事件では、「・・・設定されたパラメータによって表現される主人公の人物像が改変されるとともに、その結果、本件ゲームソフトのストーリーが本来予定された範囲を超えて展開され、ストーリーの改変をもたらすことになるからである。」(下線は筆者が付記)と判示され、「著作物」の改変が認定されました。
 ここで、「著作物」が何の著作物であるかにつき、第二審において、「ゲーム映像の著作物」という新しい概念が打ち出されました。ただし、最高裁は、著作物が「映画(ゲーム映像)の著作物」であるか否かについては言及しませんでした。

 両事件を比較して整理すると、著作物の改変に当たるか否かの判断に際して、
 1)明確なストーリー性が存在するか(明確なストーリー性を有する著作物が存在するか)
 2)そのストーリー性の具体的な改変が存在するか
 が判断基準とされています。
 ときめきメモリアル事件では、明確なストーリー性の存在及びそのストーリー性の改変が認定されて同一性保持権の侵害が認められました。
 一方、三国志III事件では、明確なストーリー性の存在及びそのストーリー性の改変が否定されました。


弁理士 岩田誠

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