2009年8月4日
[ 国内知財情報 ]
パラメータ特許のサポート要件に関する裁判例(第6回)
1.はじめに
「パラメータ特許のサポート要件に関連した裁判例」の第6回目として、『東京高裁平成15年(行ケ)第272号 「特許取消決定取消請求事件」※1』を取り上げます。
※1 東京高裁平成15年(行ケ)第272号 特許取消決定取消請求事件 全文
2.本件特許の内容(特許請求の範囲の記載)
【請求項1】 平均粒径が3~15μmの不活性微粒子を0.3~2重量%を含む密度が0.88~0.91g/cm3 であり、重量平均分子量/数平均分子量が1~3である線状低密度ポリエチレンよりなるA層と、平均粒径が2~7μmの不活性微粒子を0.3~1.5重量%を含む密度が0.905g/cm3 以上で、かつA層に用いた線状低密度ポリエチレンの密度より高い密度である線状低密度ポリエチレンよりなるB層とからなることを特徴とする線状低密度ポリエチレン系複合フイルム。
3.事案の概要
本件特許は、特許査定後に異議申し立てがなされ、特許庁の審理の結果、特許が取り消されたものです。
取り消し決定の理由は、
明細書中に、不活性微粒子の「平均粒径」の定義等がなく、その概念が明らかでないから粒子が特定できないとし、
さらに、一般的に用いられているコールターカウンター法による測定値であると特許権者が主張したのに対し、そのような事実は認められない
というものです。
4.裁判所の判断(抜粋)
しかし,(1)で述べたとおり,平均粒径の測定方法は複数あり,そして,乙第3号証ないし第8号証には,前記のとおりコールターカウンター法以外の方法を用いた例が開示されている。コールターカウンター法が,平均粒径の測定方法として一般的なものであると認めることはできない。以上のとおりであるから,法36条5項2号の判断の誤りをいう原告の主張は理由がない。
・・・(中略)・・・
1で述べたとおり,本件明細書には,平均粒径の意義,測定方法の特定がなく,また,メーカー名・商品名を明示することにより用いる不活性微粒子を特定してもいない。そうすると,当業者は,どのような不活性微粒子を用いればよいか分からないのであるから,本件明細書は,当業者が発明を実施できるように明確に記載されていないことになる。
原告は,市販品を入手して追試ができると主張する。しかし,この追試をするためには,当業者は,すべての平均粒径の意義・測定方法について,これらを網羅して,平均粒径を測定して本件発明の数値範囲に当てはまるものを用い,本件発明の効果を奏するものかを検証する必要がある。特許は,産業上意義ある技術の開示に対して与えられるものであるから,当業者にそのような過度の追試を強いる本件明細書の開示をもって,特許に値するものということはできない。
法36条4項違反の判断の誤りを原告の主張も理由がない。
5.考察
クレーム中の数値の測定方法が複数ある場合に、明細書中に測定方法を記載していないと、「当業者が発明を実施できるように記載されていない」または「クレーム中の数値が不明確である」という理由で、拒絶・無効となる可能性があります。
このため、パラメータ特許においては、数値の測定方法を明細書に記載するかどうかを十分に検討する必要があると考えます。
弁理士 宮本昭一