2009年8月10日
[ 国内知財情報 ]
特許権行使の戦略的な意味について
特許権の権利行使としては、まず警告書を競合会社に送付するのが一般的です。そして、警告書をきっかけにして競合会社との交渉に入り、和解契約やライセンス契約を締結することになります。また争うことになれば訴訟に発展することもあります。では、このように特許権の権利行使をすることが、自社の製品戦略の上でどのような意味を持つのでしょうか。
1 新製品に参入障壁を作り市場を独占できる
近年、特に家電製品などでは、性能の優れた製品であっても、東アジアからコストの低い同等の品質の製品が輸入されることが珍しくなく、過当競争により利益につながらないという問題が起きてきています。
コストの競争となれば、価格の下落率が激しく、いくら個数を多く販売しても十分な売上げが得られず、結果として損益分岐点にすら達しないというケースも珍しくないようです。
また製品のライフサイクルも短くなってきており、斬新な技術を伴う新製品を出しても、すぐに類似の製品が追随してくる状況です。
このような状況下で、新製品の発売とともに特許権を主張して競合他社を牽制すれば、新しい市場を独占することさえ可能になる場合があります。
2 コスト面でも優位に立つ
特に特許技術が基本的技術に属する場合、競合会社はライセンス契約等により何らかの金銭的な負担を負うことになり、これは競合会社にとってコストアップとなります。競合会社は同じ製品で同等の利益を得ようとすれば、販売価格を上げるか、他の部分でコストを削減しなければならないことになります。
価格競争でしのぎを削る現在のコスト競争の状況下で競合会社にとって、これは大きな痛手となり、逆に、特許権を有する自社は、コスト面で大きな優位性を獲得することになります。
3 特許技術による付加価値により差別化
一方、コスト競争に巻き込まれないようにするためには、製品にどのような付加価値を付けるかがポイントとなります。仮に特殊技術について特許を保有することができれば、特許技術による付加価値部分は競合他社との差別化につながります。
4 新製品発売の優位性をできるだけ長く維持する
特許権の権利行使として警告書などを送付すれば、競合会社は特許権の技術的範囲と自社の製品とを比較して検討したり、その特許についての無効資料を調査したりします。調査の結果によっては特許権を回避するため設計変更を強いられることもあります。
すなわち競合会社の製品製造・販売に対して強い牽制の効果を与えることになります。結果として、製造・販売が遅れてしまうことも十分に考えられます。
現在では、特に電気製品のライフサイクルが短くなってきており、先行して販売することが戦略上重要なポイントとなることも多く、特許権の行使はその点で大きな優位性を得られることになります。
5 まとめ
以上のとおり、特許権の行使は、単に金銭的な利益を得るという目的だけでなく、競合会社の製品戦略に大きな打撃を与える可能性をもつものです。これまであまり活用できていなかった特許権について積極的な活用を考えてみてはいかがでしょうか。お問い合わせは当法人までお気軽にお寄せください。
弁護士・弁理士 水野健司