2009年11月24日
[ 国内知財情報 ]
パラメータ特許のサポート要件に関する裁判例(第7回)
1.はじめに
「パラメータ特許のサポート要件に関連した裁判例」の第7回目として、『知財高裁平成19年(行ケ)第10147号 「審決取消請求事件」※1』を取り上げます。
今回は、サポート要件を満たしていると判断された事例です。
※1 知財高裁平成19年(行ケ)第10147号 審決取消請求事件 全文
2.本件特許の内容(特許請求の範囲の記載)
【請求項1】 シリコン、石英、セラミック等の硬質材料の切断、スライス用に用いられるソーワイヤであって、径サイズが0.06~0.32mmφで、ワイヤ表面から15μmの深さまでの内部応力が0±40kg/mm2 (+側は引張応力、-側は圧縮応力)の範囲に設定されていることを特徴とするソーワイヤ用ワイヤ。
3.本件特許の内容(明細書の記載)
【0011】上記の表1により、本発明の具体例1~5のワイヤと従来の比較例1~5のワイヤが、そのワイヤの実使用後のワイヤ形状について、本発明の具体例1~5のワイヤでは、ワイヤ表面の内部応力が小さく、使用線のフリーサークル径及び小波等についての直線形状が著しく向上していることがわかる。
4.裁判所の判断(抜粋)
・・・・・(略)・・・・・。
加えて,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件特許発明のワイヤの径サイズ(「0.06~0.32mmφ」)については,通常使用されるワイヤサイズに基づいて規定し,層除去の範囲(ワイヤ表面から「15μm」の深さまで)については,実使用による使用済みワイヤの片側最大磨耗が15μmであることを確認したことに基づいて規定し,内部応力の範囲(「0±40kg/mm2 」)は,実使用による使用後のワイヤに小波の発生がなく,フリーサークル径の減径が大きくなかったことを確認したことに基づいて規定したことが記載されていること(上記イ(ア)e)に照らすならば,本件特許発明の内部応力の範囲(「0±40kg/mm2 」)は,その上限値又は下限値に格別の臨界的意義があるわけではなく,ワイヤの表面層の内部応力の絶対値が小さい数値を規定したものと理解される。
(ウ) そうすると,本件明細書に接した当業者であれば,発明の詳細な説明の記載から,本件特許発明は,層除去法により数値化したワイヤの表面層の内部応力の絶対値を小さくすることにより,使用後のフリーサークル径の減径及び小波の発生という,ソーワイヤ用ワイヤの使用負荷を大きくした場合の課題を解決し,ワイヤを真直な姿勢に維持することができるようにした発明であると理解し,また,特許請求の範囲(請求項1)に記載された「ワイヤ表面から15μmの深さまでの層除去の前後におけるソーワイヤの曲率変化から求めた内部応力が0±40kg/mm2 の範囲に設定」する構成を採用すれば,上記課題を解決し,ワイヤを真直な姿勢に維持することができる効果を得られることについて,発明の詳細な説明の【表1】記載の本件特許発明の具体例1ないし5及び比較例1ないし5により裏付けられているものと理解するものと認められる。
したがって,特許請求の範囲(請求項1)に記載された本件特許発明は,発明の詳細な説明に記載されたものであり,本件明細書の記載は特許法36条6項1号を充足する。
5.考察
本件で原告は、「本件特許発明は,その特許請求の範囲(請求項1)において内部応力の数値を「0±40kg/mm2 」の具体的範囲に限定するものであるから,機能,特性等の数値を限定することにより物を特定する発明である。一方,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された具体例は,特許請求の範囲に記載された数値範囲全体にわたるものではなく,また,示された具体例においても効果の連続性がない。」等を主張しました。しかし、本件特許発明のポイントは、内部応力の数値範囲ではなく、内部応力を小さくすることであり、それが発明の詳細な説明から理解できるため、サポート要件を満たすと判断されました。
パラメータ特許が無効かどうかを判断する場合には、数値限定箇所が、本発明のポイントであるかどうかを十分に検討する必要があると考えます。
弁理士 宮本昭一