2021年4月23日
[ 国内知財情報 ]
特許法等の改正案が閣議決定
○はじめに
2021年3月2日に、特許法、実用新案法、意匠法、及び商標法の改正案が閣議決定されました。改正案は、現在開会中である第204回通常国会での審議を経て、早ければ5月頃に成立する見込みです。
○主な改正項目
今回の改正案には、主な改正項目として以下の5つの項目が含まれています。
( 1 ) 権利の回復要件の緩和
( 2 ) 海外からの模倣品への規制強化
( 3 ) 侵害訴訟における第三者意見募集制度の導入
( 4 ) 口頭審理のオンライン化
( 5 ) 権利の訂正等において通常実施権者による承諾が不要
以下、それぞれの改正項目について概要を簡単に説明します。
( 1 ) 権利の回復要件の緩和
出願人又は権利者が期限までに手続を行わなかったために失われた権利の回復要件として、特許法条約(PLT)の締約国は、「相当な注意基準」又は「故意基準」のいずれかを選択できます。日本においては、現行、「相当な注意基準」が採用されかつ厳格な判断がされてきましたが、今回の改正案では回復要件が「故意基準」に変更されています。
これまで、日本においては、他国と比較して権利の回復が認められにくいとされてきましたが、今回の改正案により権利の回復の容認率が向上することが期待されます。
これまで、日本においては、他国と比較して権利の回復が認められにくいとされてきましたが、今回の改正案により権利の回復の容認率が向上することが期待されます。
( 2 ) 海外からの模倣品の規制強化
従来、海外から日本国内へ持ち込まれる模倣品については、日本国内の事業者が輸入し販売する行為が権利の侵害となる一方、海外の事業者が日本国内の個人に対して直接販売して送付する行為は、侵害に問えないケースがありました。
今回の意匠法及び商標法の改正案では、海外の事業者により日本国内へ模倣品が持ち込まれる行為も侵害となることが明文化されています。
( 3 ) 侵害訴訟における第三者意見募集制度の導入
今回の改正案で初めて第三者意見募集制度が導入されています。これにより、裁判所は、必要と認める場合には広く一般に対して意見を求めることができるようになります。AI・IoT技術の時代において複雑化・高度化する事案について、裁判所が適切な判断をする助けとなることが期待されます。この制度は、まずは、特許権及び実用新案権の侵害に関する訴訟についてのみ対象とされています。
( 4 ) 口頭審理のオンライン化
無効審判等の審判で開かれる口頭審理について、現行では、当事者が審判廷に出頭する必要があります。今回の改正案では、新型コロナウイルスの感染拡大等に対応すべく、審判長の判断により、口頭審理についてウェブ会議システムでの開催が可能となることが盛り込まれています。ウェブ会議システムの具体的な運用については、今後制定されるガイドラインにより明らかになる見込みです。
( 5 ) 権利の訂正等において通常実施権者による承諾が不要
特許権、及び実用新案権の訂正には、現行では通常実施権者等の承諾が必要とされています。しかし、例えばパテントプールを通じて多くの相手にライセンスされている権利では、すべての通常実施権者等に承諾を求めることは現実的に困難であり、権利者が権利の内容を訂正できずに訴訟等で敗訴することが懸念されるとの意見がありました。このような懸念を解消すべく、今回の改正案では、権利の訂正において通常実施権者等の承諾が不要とされています。
また、特許権、実用新案権、及び意匠権の放棄についても、現行では同様の規定がありますが、今回の改正案では通常実施権者等の承諾が不要とされています。
弁理士:羽二生真理子