2009年5月29日
[ 国内知財情報 ]
パラメータ特許のサポート要件に関する裁判例(第4回)
1.はじめに
「パラメータ特許のサポート要件に関連した裁判例」の第4回目として、『平成15年(ネ)第3746号 「特許権侵害差止請求控訴事件」※1』を取り上げます。
※1
平成15年(ネ)第3746号 特許権侵害差止請求控訴事件 全文
2.本件特許の内容(特許請求の範囲の記載)
【請求項1】
a)粉砕、分級後のものが、走査型電子顕微鏡で1000倍の倍率で見ることのできる、破砕された、密な結晶構造をもち、
b)粉砕、分級後の50メッシュ以上20メッシュ以下の含蜜結晶粉末の見掛け比重が0.650~0.750、
c)粉砕、分級後の50メッシュ以上20メッシュ以下の含蜜結晶粉末の吸油性が7.0%~17%であり、
d)融点がマルチトール結晶よりも低い、マルチトール含蜜結晶。
3.事案の概要
明細書中に「見掛け比重」の具体的測定法が記載されておらず、上記の特許請求の範囲において「見掛け比重が0.650~0.750」の測定法が問題となった。
原告は、JISK6721法での測定が当業者に周知であると主張した。
一方、被告は、パウダーテスター法による測定を主張した。
4.裁判所の判断(抜粋)
パウダーテスター法もまた,「従来より知られた方法」の1つであり,粉末マルチトールの見掛け比重の測定方法として,当業者が通常パウダーテスター法ではなく,JISK6721の方法を用いることが明らかであると認めるに足りる証拠はないとした原判決の認定は,その挙示する証拠に照らし,相当として是認することができる。控訴人は,原判決が乙18,33,34等の証拠の見方を誤っているとも主張するが,原判決に誤りがあるとはいえない。
原判決が認定したパウダーテスター法の使用状況等に関する事情に照らせば,控訴人がJISK6721法を用いてきたからといって,上記認定を覆すに足りるものではない(控訴人は,JISK6721法の使用状況として甲94ないし100〔枝番号を含む〕を提出するが,上記パウダーテスター法に関する事情のほか,乙52ないし55にも照らせば,JISK6721法が当時の唯一の測定法として確立されていた又は使用されていたと認めることはできない。)。
(中略)
しかし,控訴人主張のとおり控訴人がJISK6721法を用いてきたとしても,控訴人は,甲特許明細書においては,その方法を開示することなく,あえて「従来より知られた方法」との包括的な記載をしたものである(甲2)。そして,前記のとおり,JISK6721法のほかに,パウダーテスター法もまた,「従来より知られた方法」の1つであり,粉末マルチトールの見掛け比重の測定方法として,当業者が通常パウダーテスター法ではなくJISK6721の方法を用いることが明らかであると認めるに足りる証拠はない。
控訴人は,上記のように,甲特許明細書に記載された測定値と,パウダーテスター法で測定した場合の測定値を対比し,さらに,JISK6721法を用いた場合とパウダーテスター法を用いた場合との測定値の差を修正することを主張する。しかし,いずれの方法で測定したか甲特許明細書に記載はなく,控訴人主張のような作業を経ない限り,容易に知ることはできないものであって,甲特許出願後の者が,当業者として当然に控訴人主張のような必ずしも容易とは思われない作業をしてしかるべきであるとすべき事情は認められない。むしろ,あえて「従来より知られた方法」との包括的な記載をして特許を取得した以上,控訴人は,上記のような作業の手間とリスクを出願後の者に転嫁することは許されず,広い概念で規定したことによる利益とともに,その不利益も控訴人において負担すべきである。
したがって,本件において,従来より知られたいずれの方法によって測定しても,特許請求の範囲の記載の数値を充足する場合でない限り,特許権侵害にはならないというべきであるとの原判決の判断は,是認し得るものであり,これを前提とした,構成要件Bの充足性に関する原判決の認定判断も相当であるというべきである。控訴人の主張は,採用することができない。
5.考察
クレーム中の数値の測定方法に関して、クレームまたは明細書に記載するか否かについても検討すべきであると考えます。
測定方法の記載が無いか記載を曖昧にしていると、測定値が異なる複数の測定方法が存在し、或る測定方法での測定値がクレームの数値範囲外である場合に、権利者側が非常に不利になる可能性があるためです。
弁理士 宮本昭一