1.はじめに
「パラメータ特許のサポート要件に関連した裁判例」の第3回目として、『平成17年(行ケ)第10818号 「審決取消請求事件」※1』を取り上げます。
※1
平成17年(行ケ)第10818号審決取消請求事件 全文
2.本件特許の内容
(2.1)「特許請求の範囲の記載」
【請求項1】固形癌,白血病または卵巣癌に罹患し,かつ過敏症反応を軽減または最小化するために予備投薬されており,タキソールによる治療に伴う血液学的毒性を呈する恐れのある患者を治療するためのタキソールを含有する薬剤であって,約135 ~約275 mg/m2のタキソールが約3時間に渡り投与されるように,非経口投与用に包装された薬剤。
(2.2)「明細書の記載」
明細書の段落【0029】には、上記図1のように記載されていました。
図1おいて、
上方に「175/24」と記載されている列のデータは、タキソールの投与量が175mg/m2で注入時間が24時間のものです。
上方に「175/ 3」と記載されている列のデータは、タキソールの投与量が175mg/m2で注入時間が 3時間のものです。
上方に「135/24」と記載されている列のデータは、タキソールの投与量が135mg/m2で注入時間が24時間のものです。
上方に「135/ 3」と記載されている列のデータは、タキソールの投与量が135mg/m2で注入時間が 3時間のものです。
また、明細書の段落【0041】には、以下のように記載されていました。
【0041】(中略)更に、より高投与量のタキソールで治療し得る患者には、約275mg/m2 までのタキソールが投与でき、該患者が重度の毒性、例えば重度の神経障害に罹った場合には、本発明のプロトコールは該タキソールの投与量を減じることを可能とする。上記教示から、本発明の多くの改良並びに変更が可能であることを容易に理解することができる。従って、本発明は特に記載した以外の態様で実施することが可能であることを理解すべきである。
3.裁判所の判断(抜粋)
特許請求の範囲の記載が発明の詳細な説明の裏付けを超えているときには,特許請求の範囲の記載は,特許法36条5項1号が規定するいわゆるサポート要件に違反するということになる。
これを本件についてみるのに,発明の詳細な説明には,3時間のタキソール投与量が135ないし175mg/m2の範囲については,卵巣癌に罹患した患者に対する有効性や安全性を裏付ける記載があるということができるとしても,上記(3)のとおり,3時間のタキソール投与量が175mg/m2を超えるものについては,その有効性や安全性を裏付ける記載がないから,本件特許発明2及び3は,その有効性,安全性を確認することができる具体的データが発明の詳細な説明に記載されていないといわなければならないし,また,卵巣癌以外の固形癌及び白血病に罹患した患者に対する有効性や安全性を裏付ける記載もないから,本件特許発明2は,さらに,その有効性や安全性を確認することができる具体的データも発明の詳細な説明に記載されていないといわなければならない。
4.考察
本件では、特許請求の範囲での数値限定範囲が「135~275」であり、「135」と「175」については具体的データが記載されているにもかかわらず、「275」については数値のみで具体的データが記載されていませんでした。
「135~275」の範囲内でどれだけ多くの具体的データを記載すればサポート要件を満たすのかという判断は困難ですが、数値限定範囲の全範囲に亘る具体的データが必要であると考えます。本件では、少なくとも、下限値である「135」と上限値である「275」の具体的データが必要でしょう。
弁理士 宮本昭一