2009年11月2日
[ 国内知財情報 ]
進歩性について (4) 近年の進歩性判断基準の傾向
近年の進歩性の判断基準については、他国に比べて厳しすぎるのではないかという意見があり、ここ数年、専門家などの間で議論・検討が活発に行われてきましたが、最近になって、進歩性の判断基準が緩くなりつつあるのではないかという意見が聞かれるようになりました。
特許庁における現行の審査基準では、進歩性の判断は引用発明に基づいて当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたことの論理づけにより行う旨規定されています。ちなみに、この判断手法は、1993年(平成5年)に従来の産業別審査基準が廃止されて現行の一般基準に統合された際に規定されたものです。当時の基準では、論理づけは、請求項に係る発明に対して起因ないし契機(動機づけ)となり得るものがあるかどうかを主要観点として行うとされ、動機づけを必要とすることが強調されていました。
一方、高裁(審決取消訴訟)においては、同一の技術分野に属する複数の公知発明の組合せは阻害要因がなければ原則容易であるという判決が多数出て、無効審判請求不成立の審決(有効審決)の半分以上が覆されるという事態が発生しました。
こうした状況から、2000年(平成12年)に進歩性の審査基準が改訂され、積極的な動機づけは必須でなく、種々の観点、広範な観点から論理づけを行うことができることが明確にされました。
以上のような経緯で、近年の進歩性の判断基準は、特許庁・裁判所共に高いものとなっており、厳しすぎるのではないかという指摘がなされていました。
ところが、最近の審決取消訴訟では、以前とは逆に、無効審判請求成立の審決(無効審決)を取り消す判決の割合が多くなってきており、また、以前に比べて動機づけを重視しているように解される判断が見受けられるようになりました。
もちろん、裁判所の判断は事件の内容に応じて個別具体的になされるものであり、限られた事例から直ちに傾向が変わったと決めつけることはできませんが、こうした動向に留意しつつ柔軟に対応することは実務上重要となります。
次回は、最近の裁判例について紹介します。
弁理士 竹中謙史