2009年11月20日
[ 国内知財情報 ]
歴史上の人物名からなる商標登録出願の取扱いについて~審査便覧が改訂されました~
商標審査便覧の改訂が2009年10月21日に公表されました。
歴史上の人物名(周知・著名な故人の人物名)からなる商標登録出願の取扱い作成に伴う商標審査便覧の改正について
今回の改訂では以下の項目が追加されました。
「歴史上の人物名(周知・著名な故人の人物名)からなる商標登録出願の取扱いについて」
周知・著名な歴史上の人物名は、その人物名の名声により強い顧客吸引力を有しています。
また、その人物の郷土やゆかりの地においては、住民に郷土の偉人として敬愛の情をもって親しまれています。
そのような人物名の商標登録、特に、全く関係のない第三者による商標登録に対しては、国民や地域住民全体の反発も否定できません。
そして、そのような商標登録に対しては、公正な取引秩序を乱し公序良俗を害するおそれがあるとの懸念が指摘されていました。
しかし、現状の商標法では歴史上の人物名の登録を禁止する明文の規定が存在しません。
最近では、「吉田松陰」の商標登録を巡って地元(山口県萩市)の自治体が登録意義申し立てを行ったという事案もありました。
一方で、最近の判決・審決では、歴史上の人物名について、商標の構成自体が公序良俗違反でなくとも出願の経緯や目的において社会的妥当性を欠き、登録を認めたならば商標法の予定する秩序に反する、として公序良俗違反(商標法4条1項7号違反)により登録が認められない例も出ています。
今回追加された審判便覧は、このような最近の判決・審決の動向に沿ったものとなっているようです。
以下は審査便覧の抜粋です。
1.歴史上の人物名からなる商標登録出願の審査においては、商標の構成自体がそうでなくとも、商標の使用や登録が社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合も商標法第4条第1項第7号に該当し得ることに特に留意するものとし、次に係る事情を総合的に勘案して同号に該当するか否かを判断することとする。
(1) 当該歴史上の人物の周知・著名性
(2) 当該歴史上の人物名に対する国民又は地域住民の認識
(3) 当該歴史上の人物名の利用状況
(4) 当該歴史上の人物名の利用状況と指定商品・役務との関係
(5) 出願の経緯・目的・理由
(6) 当該歴史上の人物と出願人との関係
2.上記1.に係る審査において、特に「歴史上の人物の名称を使用した公益的な施策等に便乗し、その遂行を阻害し、公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら、利益の独占を図る意図をもってした商標登録出願」と認められるものについては、公正な競業秩序を害するものであって、社会公共の利益に反するものであるとして、商標法第4条第1項第7号に該当するものとする。
弁理士 岩田誠