2009年7月13日
[ 国内知財情報 ]
不正競争を根拠とする商品等表示の差止が認められた事例
不正競争を根拠とする商品等表示の差止が認められた事例(大阪地裁判決平成21年4月23日※1)について紹介致します。
不正競争防止法第2条第1項第1号では、他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されているものと同一もしくは類似の商品等表示を使用等する行為を不正競争とし、同法第3条第1項では、不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれのある者の差止請求権を規定しています。
これらの規定により、商標の登録がない場合でも、商品等表示の差止請求ができる場合があることになります。最近の裁判例でも、この条項を根拠として、商品等表示の使用について差止等の請求を認めたものがあります。
今回はこの条項の要件について実際に裁判所がどのような判断をしたかについて確認してみましょう。
1 周知性について
まず不正競争にあたるための要件として、「需要者の間に広く知られている」(周知性)が必要になります。
本件では、原告の「ARK(アニマル・レフュージ・カンサイ)」との表示に周知性が認められるか否かが問題となりました。
裁判所は、原告が平成7年の阪神大震災以後、数多くの新聞や雑誌などのメディアで取り扱われたことを理由として周知性を肯定しました。ただし、新聞等による報道の頻度は、著名性を獲得するまでのものではないとして、同項2号の著名性については否定しています。
2 類似性について
本件では原告の表示が「ARK」であったのに対して、被告の表示が「ARK‐ANGELS」の表示であったことから、これが類似しているといえるか否かも問題となりました。
裁判所は、被告の表示について、「ARK」と「ANGELS」は、ハイフン等で分けられていること、「ANGELS」は、取引者・需用者間でよく知られた言葉であり、識別力は弱いことから、類似性を肯定しました。
3 混同のおそれについて
また 同項1号では「混同を生じさせる行為」である必要がありますが、本件では、原告の表示と被告の表示が類似していること、活動目的が同じであることに加えて、実際に混同の事例が生じていたことから、これを肯定しています。
本件では、被告の募金活動が民事及び刑事で問題となり、マスコミで取り上げられたことを契機として、これを原告の行為と混同した一般市民から原告に対して多くの苦情が寄せられたという事情がありました。
4 判決の結論部分
裁判所は、被告各表示及び「ark-angels.jp」のドメイン名の使用差止、被告各表示を付した商品等の廃棄及び被告のウェブサイトからの被告各表示の抹消、並びに損害賠償金として110万円の支払について認容しました。
5 考察
裁判所の認定した事実によれば、原告の「ARK」を紹介した新聞・雑誌の記事はかなりの数に及んでおり、特に関西圏では「ARK」の表示が広く知られていたことを伺わせます。実際の周知性を立証する場面では、やはり新聞や雑誌などの記事を収集して証拠とすることになるのでしょうが、これには多くの手間と時間がかかることが予想されます。
また本件については、現実に混同の事例が生じており、原告に損害が生じている特殊な事情があったためそれほど問題になりませんでしたが、実際に混同のおそれを認定するのに困難な場合も多いと考えられます。
このように本件の裁判例を検討しますと、商標登録がなくても、商品等表示が保護される場合があること自体は事実であるにしても、実際には周知性を立証するために多くの証拠を集めなければならず、そのためにかかるコストは膨大なものとなることが予想されます。そのため、やはり不正競争防止法による救済はあくまで例外的なものと考え、これに頼りすぎることなく、早い段階で商標登録をしておくのが適切であるといえるでしょう。
※1
平成19年(ワ)第8023号不正競争行為差止等請求事件 全文
弁護士・弁理士 水野健司