2009年7月1日
[ 国内知財情報 ]
進歩性について (3)相違点に関する容易性の判断
前回(第2回)の投稿では、第1回の投稿で概要を示した進歩性の判断手順のうち、本件発明の要旨認定~一致点・相違点の認定の手順について説明しました。今回は、残りの手順について説明します。
4 相違点に関する容易性の判断[S4~S7]
本件発明と引用発明との相違点に係る構成(本件発明が備える構成のうち、引用発明が備えていない構成)が、別の証拠に示されているかを判断します[S4]。
例えば、本件発明がA+B+C、刊行物1に記載された引用発明1がA+Bである場合、本件発明と引用発明1との相違点はCということになります。
そして、この相違点Cに係る構成が示された別の証拠が存在する場合[S4:YES]、例えば、刊行物1とは別の刊行物2にA+Cの発明(引用発明2)が示されている場合には、下記(1)の手順へ移行し、本件発明(A+B+C)が、引用発明1(A+B)と引用発明2(A+C)とを組み合わせることなどにより容易に得られたものであるかを判断します。
一方、相違点Cに係る構成が示された証拠が存在しない(見つからない)場合には[S4:NO]、下記(3)の手順へ移行し、その相違点Cに係る構成が、証拠を示すまでもなく容易に想到できる程度のもの(設計事項等)であるかを判断します。
(1)構成の組合せ又は置換が容易であるか[S5]
引用発明に係る構成と別の証拠に示されている構成とを組み合わせること又は置換することが容易であるかを判断します。
具体的には、動機づけ(※1)となりうるものがあり、かつ、阻害要因(※2)がない場合には、構成の組合せ又は置換が容易であると判断します。一方、動機づけとなりうるものがない、又は、動機づけとなりうるものはあるが阻害要因がある場合には、構成の組合せ又は置換が容易でないと判断します。ただし、近年では、審決取消訴訟において、同一の技術分野に属する複数の公知発明の組合せは阻害要因がなければ原則容易である旨の見解が示された裁判例が多数出ており、組合せの困難性が認められにくい傾向にあります。
(※1)動機づけ
動機づけとなりうるものには、「技術分野の関連性」、「課題の共通性」、「作用、機能の共通性」、「引用発明の内容中の示唆」があります。
(※2)阻害要因
阻害要因とは、単に動機づけが存在しないといった消極的な要因ではなく、引用発明同士を組み合わせることが当業者によって想定され得ないような積極的な要件をいいます。したがって、単に技術分野が異なる、課題が異なるといった程度のことは、阻害要因には当たりません。阻害要因の例としては、引用発明同士を組み合わせるとその技術的な前提条件が破綻してしまう、組み合わせると取り返しのつかないデメリットが生じることが技術常識として知られている、技術課題の解決方向が逆になるといったことが挙げられます。
(2)予想以上の効果があるか[S6]
有利な効果の参酌が問題となるのは、進歩性を否定する論理づけが一応成立する場合(上記(1)の手順で構成の組合せ又は置換が容易であると判断した場合)ですので、単に引用発明に比較して有利な効果があるというだけでは足りず、「当業者が技術水準から予測し得ない顕著な効果」でなければ、進歩性は否定されます。
なお、明細書に記載されておらず、かつ、明細書又は図面の記載から当業者が推論できない効果は参酌されませんので、出願時に把握している発明の効果についてはあらかじめ明細書中に記載しておくことが重要です。(出願後に実験成績証明書で立証しても参酌されませんので注意が必要です。)
(3)相違点に係る構成が設計事項等であるか[S7]
設計事項等による論理づけは、「動機づけ」とは別の論理づけの手法であり、動機づけのような論理づけは必要なく、また、相違点に係る構成が刊行物等に記載されていることも要しません。
設計事項には、技術の具体化に伴って当業者が当然考慮せざるを得ない事項で特段の技術的意味が認められないものなどが含まれると解されます。ただし、実務上(例えば審査段階において)は、設計事項の範囲が一般的な意味よりも広く捉えられる傾向にあり、設計事項とはいえないような構成までもが設計事項として判断されることがあります。このような場合、設計事項を否定する立場においては、技術を具体的に適用するにあたって、相違点に何らかの機能、作用において無視し得ないような差異や技術思想の転換があることを主張することが有効です。
5 まとめ
以上のような手順により進歩性は判断されますが、これにより画一的な結論が得られるものではなく、特許庁の判断が知財高裁で覆されることもあります。したがって、審決取消訴訟の裁判例など、具体的事例を検討することにより判断傾向を予測することも重要です。
弁理士 竹中謙史