2011年7月11日
[ 商標・意匠情報 ]
何十年と使用していれば商標登録は不要? 【商標相談室_その2】
飲食業、和菓子店、食品製造業の方々から時折いただく質問を回答と共に紹介させていただきます。
何十年と使用していれば商標登録は不要?
自分たちは、昭和○○年から商標を使用している。もし今後誰かが、自分たちの商標と同じような商標を商標出願して商標権を取ったとしても、自分たちはその他人よりも先に使い始めているのだから、この商標を使い続けることができると思うが正しいか?
貴社がその商標を使い続けることができるかどうかは、第三者が商標出願したときに、貴社の商標が広く知られているかどうかによって判断が分かれます。
確かに、商標法32条では、他人が商標出願をしたときに、不正競争の目的なく使用し続けていた自己の商標が需要者に広く知られている場合には、引き続きその商標を使用する権利(先使用権)を認めています。
しかし、貴社の商標が需要者に広く知られていない場合には、何十年と使用してこられていたとしても、残念ながら先使用権は認められないことになります。
また、ある時期はテレビCMを流していて需要者に広く知られるようになっていたとしても、第三者が商標登録出願等をしたときにあまり知られなくなっていた場合にも、法が定める先使用の要件を充たさないと判断されてしまいます。
第三者がいつ商標登録出願等を行うかは予測が立たないため、先使用権を主張するためには、例えば、継続して広告を出し続けることが必要であったりします。
長期の広告費用や、商標権者から商標の使用を止めるよう要求されて看板等を全て取替える費用を考えると、自ら商標登録出願し権利を取得しておく方が、安気でお値打ちではないでしょうか。
【解説】
商標の先使用権は、特許の場合よりも要件が厳しく、認められにくくなっています。
商標法第32条が定める先使用権を認められるための要件は2つあります。
『要件1:他人の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなく使用してきたこと』
『要件2:他人の商標登録出願等の際、現にその商標が自己の業務にかかる商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていること』
となっています。
多くの場合、要件1は充たしておられるのですが、要件2の『広く認識されている』が証明困難で、商標の先使用権が認められにくい一因となっています。
また、仮に先使用権が認められた場合でも、先使用権が及ぶ範囲は現状の業務範囲に限定されます。従って、後々、事業拡大を計画したとき、先使用権を認められた範囲を超える商品・役務については、原則、先使用権は主張できないので、他者の商標権侵害を構成する可能性もあります。その点も注意が必要です。
弁理士 小早川俊一郎