2010年6月29日
[ 海外知財情報 ]
【米国】Bilski事件に関する米国最高裁判決
2010年6月28日、米国最高裁は、ビジネス方法発明(※1)やソフトウェア関連発明(※2)に関する新たな判断指針が打ち出されるかという観点で注目されていたBilski事件(Bilski v. Kappos)に関して判断を下しました。米国最高裁は、Bilskiによってクレームされた方法発明につき、特許性なしと判断しました。但し、米国最高裁は、下級審であるCAFC(米国連邦巡回控訴裁判所)が示した“machine-or-transformation” testをクリアしていないことを理由とするのではなく、既に存在している過去の裁判例で適用された判断基準を適用することで、特許性なしと判断しました。
米国最高裁は、クレームされた方法発明が米国特許法101条に規定された保護対象となりうる対象か否か判断するための明確なルールを提示しませんでした。米国最高裁は、「クレーム発明にかかるアイディアが“abstract” idea(「抽象的」アイディア)(※3)である場合には特許性なし」と判示した過去の裁判例(Benson, Flook, and Diehr)を適用して、Bilskiによってクレームされた方法発明については、“abstract”(抽象的)であるから特許性なしと判断しました。
また、米国最高裁は、CAFCが示した“machine-or-transformation” testについては、米国特許法101条に規定する特許可能な対象に該当するか否か判断する手助けとなりうる一手法に過ぎないと述べました(※4)。これにより、“machine-or-transformation” testをクリアしない方法発明であっても、“abstract”(抽象的)な記述にかかる発明でない限りは、特許性ありの発明であると判断される可能性があることが明確になりました。米国特許法101条に関連した具体的な判断手法の明示を避けた今回の判示により、今後の米国内裁判所における特許事件において、米国特許法101条が争点となる局面が少なくなることが予想されます。
※1:ビジネス方法発明に関する特許性について
米国特許法101条には、「ビジネス方法」を特許による保護の対象から除外する旨の明確な規定はなされていません。但し、今回、米国最高裁は、ビジネス方法発明について認められている先使用権に基づく抗弁につき規定されている米国特許法273条(a)(3),同(b)(1)が「少なくともビジネス方法にかかる特許の存在を明確に前提としている」(explicitly contemplates the existence of at least some business method patents)し、「このような抗弁を認めることにより、米国特許法自体がビジネス方法発明にかかる特許が存在しうることを認めている。」(by allowing this defense the statute itself acknowledges that there may be business method patents)と判示しました。
※2:ソフトウェア関連発明の特許性について
今回の米国最高裁の判断では、ソフトウェア関連発明の特許性についての明確な判断基準が明示されませんでした。これにより、実務上、ソフトウェア関連発明の多くは特許可能な対象と考えられるであろうと予想されます。少なくとも、今回の米国最高裁の判断により、ソフトウェア関連発明の特許性が安直に否定されることはなくなると考えられます。
※3:“abstract” idea(「抽象的」アイディア)とは?
何が“abstract” idea(「抽象的」アイディア)に該当するのかについては謎が多いというのが現状ではありますが、今回、米国最高裁の9人の判事全員が、Bilskiによってクレームされた方法発明については、「Benson and Flook事件で問題となったアルゴリズムと同様に」(just like the algorithms at issue in Benson and Flook)抽象的アイディア(abstract idea)であることから特許性なし、と判断しました。
※4:米国特許法101条に規定する特許可能な対象に該当するか否か判断するtestについて
米国特許法101条は、特許による保護対象として「方法、機械、生産物、組成物」(process, machine, manufacture, or composition of matter)がありうることを規定しています。Bilski事件では、このうち、「方法」(process)にかかる発明の定義につき、問題となりました。今回の米国最高裁の判示では、多数意見がこの「方法」(process)につき定義することを避けた訳ですが、CAFCが示した“machine-or-transformation” testでは何が特許可能な方法であり何が特許不可能な方法であるかが定義されていない旨の判示は行いました。また、米国最高裁は、“machine-or-transformation” testについては、米国特許法101条における特許可能な「方法」に該当するか否か判断する上で「そのtestは有用かつ重要な手がかりとなる調査ツールかもしれないが、米国特許法101条における特許可能な「方法」に該当する発明であるか否かを判断するための唯一の方法ではない」(although that test may be a useful and important clue or investigativetool, it is not the sole test for deciding whether an invention is a patent-eligible “process” under §101)と判示しました。「手がかり」(clue)としてのtestであるが故に、“machine-or-transformation” testをクリアしていない方法発明であっても、“abstract” idea(「抽象的」アイディア)でないことを理由に米国特許法101条における特許可能な「方法」に該当する発明と認定される可能性があります。また、逆に、“machine-or-transformation” testをクリアした方法発明であっても、“abstract” idea(「抽象的」アイディア)であることを理由に米国特許法101条における特許可能な「方法」に該当しない発明と認定される可能性もあります。
注:Bilski事件につき、下級審であるCAFC(米国連邦巡回控訴裁判所)にて2008年10月になされた判断については、「【米国】Bilski事件に関するCAFC(米国連邦巡回控訴裁判所)判決」をご参照ください。
弁理士 石原啓策