2009年3月12日
[ 国内知財情報 ]
プログラムが「著作物」と認められない場合について
「プログラムの著作物」が昭和60年の著作権法改正により保護の対象として明文化されたことはよく知られています。ただし、これをもって、プログラムが全て著作権法で保護されるから安心だと考えてしまうのは危険です。
著作権法はあくまで「創作的に表現」したもの(著作物)だけを保護の対象にしていますから、そもそも「表現」でないものや「創作的」でないものは保護の対象となりません。これはプログラムであっても同じことがいえます。
まず著作権法は、「表現」を保護するものですから、アイデア自体は保護されません。プログラムについていえば、処理の手順については、アイデア段階のものであり表現されたものとはいえないので著作権法の保護の対象となりません。
ですから、処理の手順を自分の権利としたいと思われるのであれば、その部分は別途特許出願をする必要があります。
<注意点1>処理手順は著作権法で保護されないので、権利化したければ特許出願をする必要がある。
次に著作権法は、「創作的」なものを保護するものですから、一般的には、作成者の個性が発揮されたものでなければいけません。
この点、知財高裁平成18年12月26日判決※1では、「プログラムに著作物性があるといえるためには、指令の表現自体、その指令の表現の組合せ、その表現順序からなるプログラム全体に選択の幅が十分にあり、かつ、それがありふれた表現ではなく、作成者の個性が表れているものであることを要する」としています。
この裁判例では、FORTRAN言語で書かれたプログラムについて、サブルーチンの数、ステップの数、式の展開、入出力その他の条件の設定に対応して、各ステップの組合せ、その順序、サブルーチン化などで、多様な記載が可能であり、作成者の工夫がこらされている部分については、その個性が認められるとして著作物性を認めましたが、一方で、簡単なプログラムで、公知の基礎方程式をプログラムに置き換えて、コンピュータにより計算し、解析できるものであって、プログラムの記載に選択の余地がない部分については著作物性を認めませんでした。
同様の判断は、東京地判平成15年1月31日※2(判例時報1820号127頁)でもされており、この裁判例では、「特定の機能を果たすプログラムの具体的記述が、極くありふれたものである場合に、これを保護の対象になるとすると、結果的には、機能やアイデアそのものを保護、独占させることになる」とした上で、原告のプログラムをサブルーチン毎に個別に検討し、その大部分を「製作者の個性が発揮された表現とはいえず、創作性がない」としています。
これらの裁判例からすれば、一つのプログラムであっても、著作権法で保護される部分と保護されない部分が存在する可能性があり、作成者の個性が発揮されていない部分については著作物ではないから著作権法では保護されないということになります。
ところで、プログラミングの一般的な手法として、技術者はできる限り汎用性・抽象度の高いモジュールやサブルーチンを作成して単純化することを試みます。特に、数人が共同で開発する場合は、相互間でそのモジュールやサブルーチンがどのような動作をするのかが明確になっていなければならないので、その傾向は顕著になるはずです。
しかしながら、前述の裁判例によれば、汎用性・抽象度を高くすればするほど、そのモジュールやサブルーチンからは個性が薄くなり、著作物性が認められにくくなってしまうことになってしまいます。この背景には、文化の発展を目的とした著作権法で、プログラムのような技術の産物を保護しようとしたことの難しさがあります。
ただ現在の実務では、これらの裁判例を前提としますから、プログラムについて著作権法による権利行使をする際は、各モジュールやサブルーチンについて著作物性(創作性)の要件も検討する必要があることになります。
<注意点2>汎用性・抽象度の高い単純なモジュールは著作権法で保護されない可能性がある。
このようにプログラムが全て著作権法で保護されるわけではないことがおわかりいただけたと思います。
※1
平成18年(ネ)第10003号著作権存在確認等請求控訴事件 全文
※2
平成13年(ワ)第17306号著作権侵害差止等請求事件判例 全文
平成13年(ワ)第17306号著作権侵害差止等請求事件判例 別紙1
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弁護士・弁理士 水野健司