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2023.04.05 国内知財情報

特許請求の範囲に記載された文言の意義の解釈について判断手法が示された裁判例の紹介

特許請求の範囲に記載された文言の意義の解釈について判断手法が示された裁判例の紹介

1.はじめに

「特許請求の範囲に記載された文言の意義の解釈」について判断手法が示された裁判例(知財高裁 令和2年(ネ)第10044号 特許権侵害損害賠償請求控訴事件(原審 東京地方裁判所 平成29年(ワ)第29228号))を紹介します。
従来の判断手法を踏襲したものではあり、また個別具体的な事案に対する判断手法であるとは言えますが、非常に参考になる事案です。
この裁判例では、「特許請求の範囲に記載された文言の意義を解釈するに当たっては,発明の解決すべき課題及び発明の奏する作用効果に関する明細書の記載を参酌し,当該構成によって当該作用効果を奏し当該課題を解決し得るとされているものは何かという観点から検討すべきである。」と示されました。
 
 
 

2.特許発明の技術的範囲

日本特許法では、「特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。」(特許法第70条第1項)と規定されています。
この場合においては、「願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。」(特許法第70条第2項)と規定されています(※)。
※工業所有権法(産業財産権法)逐条解説[第22版]では、特許法第70条第2項について、「特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められることを原則とした上で、特許請求の範囲に記載された用語について発明の詳細な説明等にその意味するところや定義が記載されているときは、それらを考慮して特許発明の技術的範囲の認定を行うことを確認的に規定したものである。」と解説されています。
 
 
 

3.事案の概要

(3-1)経緯

特許第4520670号(本件特許)の特許権者である控訴人(一審原告)が,給油装置に組み込まれる設定器(被告給油装置)を製造・販売している被控訴人(一審被告)に対して、差し止めおよび損害賠償を請求し(第一審。(東京地方裁判所 平成29年(ワ)第29228号))、第一審では、差し止めおよび一部の損害賠償が認容されました。
本件は、第一審の控訴審であり、控訴審では、被告給油装置は本件特許の技術的範囲に属しないとする一審被告の主張(非侵害論主張)が認容され、「一審被告の控訴に基づき,原判決中,一審被告敗訴部分を取り消す。」と判断されました。
 
 
 

(3-2)本件特許発明

本件請求項1に記載された本件発明1は,構成要件を分説して示すと,以下のとおりです(以下,各構成要件を「構成要件1A」「1A」等と表記し,1C1・1C2を併せて「1C」,1F1~1F4を併せて「1F」ということがあります。)。
 
(本件発明1)
 1A 記憶媒体に記憶された金額データを読み書きする記憶媒体読み書き手段と,
 1B 前記流体の供給量を計測する流量計測手段と,
 1C1 前記流体の供給開始前に前記記憶媒体読み書き手段により読み取った記憶媒体の金額データが示す金額以下の金額を入金データとして取り込むと共に,
 1C2 前記金額データから当該入金データの金額を差し引いた金額を新たな金額データとして前記記憶媒体に書き込ませる入金データ処理手段と,
 1D 該入金データ処理手段により取り込まれた入金データの金額データに相当する流量を供給可能とする供給許可手段と,
 1E 前記流量計測手段により計測された流量値から請求すべき料金を演算する演算手段と,
 1F1 前記流量計測手段により計測された流量値に相当する金額を前記演算手段により演算させ,
 1F2 当該演算された料金を前記入金データの金額より差し引き,
 1F3 残った差額データの金額を前記記憶媒体の金額データに加算し,
 1F4 当該加算後の金額データを前記記憶媒体に書き込む料金精算手段と,
 1G を備えたことを特徴とする流体供給装置。
 
 
 

(3-3)一審被告の主張(下線は本記事の筆者が付したものです)

本件発明1の構成要件1C1における「入金データとして取り込む」は、「①金額データの読取り、②入金データの取込み、③給油料金の設定、④給油」の順に動作する。被告給油装置では、「電子マネー媒体の金額データが示す金額以下の額」は、顧客によって、利用の都度、設定され、②と③との順序が逆となる。したがって、被告給油装置は、構成要件1C1を充足しない。
 
 
 

(3-4)一審原告の主張(下線は本記事の筆者が付したものです)

特許発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるものであり、明細書に記載された実施例の具体的な構成に限定して解釈されるべきものではない。本件発明1の特許請求の範囲の記載は、取り込まれる入金データの額が残高の額「以下」であれば誰がその具体額を設定するか限定していないし、②と③との順序についても限定していないから、一審被告の上記主張は、被告給油装置が本件発明1の構成要件1C1を充足することを左右しない。
 
 
 

4.知財高裁の判断(要約)

知財高裁は、次のように判断しています(下線は本記事の筆者が付したものです)。
 
 

(4-1)本件発明1の構成要件1C1の非充足について(非侵害論主張④)

本件発明1の構成要件1C1において,「先引落し」の金額となる「記憶媒体の金額データが示す金額以下の金額」は、設定器のシステムが予め設定した金額を意味するものと解すべきである。「先引落し」額そのものは,実際の給油代金額としてではなく,あくまでも後に支払われるべき給油代金額の担保として決定されるものであるため,その額の決定に当たっては,給油所運営者の側が,給油代金確保の必要性その他の観点から適当な金額を定めれば足りるのであって,その額を決定するのに当たって顧客の意思を反映させる必要はない。したがって、本件発明1は,顧客が「先引落し」額を決定するという構成を想定していないものと解される。
これに対し,被告給油装置においては,「先引落し」の金額となる「電子マネー媒体の金額データが示す金額以下の金額」は,顧客が利用に際して指定する給油予定量に対応した給油予定金額である。このため,被告給油装置において引き落とされる金額は,担保ではなく給油代金そのものであり,したがって,それが顧客の意思と関わりなく決定されることはあり得ない
このように,本件発明1と被告給油装置とでは,先引落し金額が有する意味合いが全く異なり,それを反映して,被告給油装置においては,先引落し金額を,本件発明1の構成要件1C1が想定しない,顧客が定めるという方法で定めることとなっているのであるから,被告給油装置は,本件発明1の構成要件1C1を充足しない。
 
 
 

(4-2)まとめ

発明とは課題解決の手段としての技術的思想なのであるから,発明の構成として特許請求の範囲に記載された文言の意義を解釈するに当たっては,発明の解決すべき課題及び発明の奏する作用効果に関する明細書の記載を参酌し,当該構成によって当該作用効果を奏し当該課題を解決し得るとされているものは何かという観点から検討すべきである。しかるに,一審原告の上記主張は,かかる観点からの検討をせず,形式的な文言をとらえるにすぎないものであって,失当である
 
 
 

5.考察

上記の裁判例によれば、イ号製品が特許権の技術的範囲に属するか否かの判断に際しては、単に、発明の構成として特許請求の範囲に記載された文言をそのままの意義で解釈するのでは十分ではないことが改めて示されました。この点に関しては、従来の判断手法を踏襲したものではあり、新しいものではありません。
そのうえで、上記の裁判例では、明細書に記載された具体的な実施形態の記載にとどまることなく、発明の解決課題や作用効果の記載を参酌して、個別具体的に、特許請求の範囲に記載された用語の意義解釈を行っています。解決課題や作用効果の記載が権利範囲の解釈に影響することが改めて明示され、解決課題や作用効果の位置付けの重要性を改めて示した事案であると言えます。
もし、特許権侵害の警告を受けた場合には、特許請求の範囲に記載された文言の意義を解釈するにあたり、単に文言そのものの意義で解釈するのではなく、明細書の記載を参酌して、課題を解決し得る作用効果を奏しているものが何であるかを検討することが重要です。
 
 
弁理士:安藤博輝
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