2023.03.17 国内知財情報
原告動画を抜粋した投稿動画と、投稿動画を引用した記事との一体性を否定して、投稿動画の著作権侵害を認めた裁判例の紹介
1.はじめに
著作権侵害について争われた事案(令和3年(ワ)第27488号)を紹介します。
SNS(ツイッター)が舞台の1つとなっており、昨今の情報発信について課題を提示する事案という点で参考になります。
2.概要
本件は、原告が、電気通信事業等を営む被告に対し、原告が著作権を有する動画を抜粋した投稿がツイッターのウェブサイトにされたことから原告の著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権)が侵害されたとして、発信者情報の開示を求めた事案です。
発信者情報の開示請求が裁判所において認められると、発信者を特定するための情報が原告に開示され、原告は、発信者に対して著作権侵害の訴訟を提起することが可能となります。開示請求が認容されるためには、正当な理由があること(ここでは、著作権侵害が成立し得ること)、が要件の1つとなります。
この点に関し、裁判所は、ツイッターのウェブサイトに投稿された投稿動画により原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたとして、原告は被告に対し本件発信者の発信者情報の開示を求めることができると判断しました。
3.事案の概要
(3-1)原告による動画配信
原告は、YouTubeチャンネルにおいて、自らの著作物であり著作権を有する動画(以下、本件動画)を投稿配信した。
(3-2)本件発信者による投稿
本件発信者は、本件各投稿として、本件動画を抜粋した動画2本(以下、本件各投稿動画)を、被告の特定電気通信設備を経由してツイッターに投稿した。
本件発信者は、更に、ツイッターとは別のウェブサービスを利用し、本件動画を批判する記事(以下、乙3記事)を投稿した上で、本件動画を「抜粋した動画」であるとして、本件各投稿の内容を掲載した。
(3-3)乙3記事に係る発信者情報開示手続等
原告は、東京地方裁判所に対し、債務者をnote株式会社として、乙3記事に係る発信者情報について、仮処分命令の申立てをした。
原告と本件発信者は、①本件発信者が乙3記事を削除し、②原告が、乙3記事の削除後上記申立てを取り下げること、③原告が、乙3記事について、note株式会社に対する発信者情報開示請求をしないと確約することなどを内容とする合意(以下、本件合意)をした。
本件合意に係る合意書には、各代理人弁護士の事務所住所及び氏名は記載されているが、本件発信者の住所氏名は記載されていない。
本件合意に係る合意書には、原告の本件発信者に対する損害賠償請求権などの債権債務を清算する旨の条項は存在しない。
4.争点
(4-1)権利侵害の明白性(争点1)
(4-2)開示関係役務提供者該当性(争点2)
(4-3)正当な理由の有無(争点3)
5.裁判所の判断
(5-1)争点1(権利侵害の明白性)について
裁判所は、
『本件各投稿動画が、乙3記事に適法に「引用」(著作権法32条1項)されたものであるとして、本件各投稿によって、原告の権利が侵害されたことが明らかであるとはいえない』という被告の主張に対して、
『本件各投稿動画は、本件各投稿としてツイッターにアップロードされたものであるところ、乙3記事との間でリンク等によって関連付けられているものの、ツイッター上の各投稿は、そのサービスとしての性質上、それ自体が独立に閲覧の対象となることを当然に予定するものであるといえる。これらの事情を踏まえると、本件各投稿動画は、ツイッターとは別のウェブサービスを利用して掲載された乙3記事とは、独立に公衆送信されていると認めるのが相当である。そうすると、本件各投稿動画は、乙3記事との関係において、適法に「引用」されたものということはできない。』、
『本件各投稿動画が、少なくとも本件各投稿との関係においては、一体的に公衆送信されていると把握されるとしても、本件各投稿は、「B´検証用動画ダイジェスト1」又は「B´検証用動画ダイジェスト2」という記載とともに、本件各投稿動画を掲載するのみであって、当該動画の内容を批評等したり、その出所の明示等をしたりする記載は何ら存在しないことが認められ、しかも、乙3記事に対するリンクなど、乙3記事の記載を補足する手掛かりもないことが認められる。これらの事情を踏まえると、本件各投稿動画は、本件各投稿との関係においても、適法に「引用」されたものということはできない。』として、
『本件各投稿によって、少なくとも原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかである』と判断しました。
(5-2)争点2(開示関係役務提供者該当性)について
裁判所は、
『本件各投稿のような侵害情報の投稿とログインとの間に時間的接着性がある等の特段の事情がない限り、「権利の侵害に係る発信者情報」に当たらないと解すべきである』という被告の主張に対して、
『アカウントにログインした者が、権利の侵害に係る情報を送信したと認められる場合には、そのログインの際の通信に係る発信者情報は、これが権利の侵害に係る情報の送信の直前直後のログインであるといったような時間的接着性がなくても、「権利の侵害に係る発信者情報」に該当するものと認めるのが相当である』として、
『当該通信に係る発信者情報は、原告の権利を侵害した発信者を特定する情報であり、プロバイダ責任制限法4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」である』と判断しました。
(5-3)争点3(正当な理由の有無)について
裁判所は、
『原告が、本件発信者に対し、乙3記事に係る発信者情報の開示請求をしないことを確約していることを指摘し、原告が、乙3記事に含まれる本件各投稿に係る発信者情報の開示を求めることは、当該確約を潜脱するものであり、「正当な理由」がない』という被告の主張に対して、
『本件合意は、本件発信者が、乙3記事を削除し、原告が、乙3記事について、note株式会社に対する発信者情報開示請求をしないと確約したものにすぎず、本件各投稿について、被告に対する発信者情報開示請求をしないことまで合意したものではない。』等として、
『原告が、被告に対し、本件発信者の発信者情報の開示を求めることが、本件合意を潜脱するものであるとはいえず、その必要性及び合理性が認められるといえる。』と判断しました。
6.考察
本件発信者は、原告が投稿した本件動画を抜粋した本件各投稿動画をツイッターにアップロードし、更に、本件各投稿動画が本件動画を「抜粋した動画」であるとして本件各投稿の内容を掲載した乙3記事を、ツイッターとは別のウェブサービスを利用して投稿しました。そして、乙3記事には、本件各投稿動画が本件動画を引用していることを示す記載があることが認められるとしても、本件各投稿動画には、本件動画を引用する記載は何ら存在していません。
本件は、このような状況が、著作権法32条1項に規定する「引用」に該当するか否かの判断が示された裁判例です。著作権法32条1項は、「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」と規定しています。
乙3記事を読めば、本件各投稿動画が本件動画を引用していることを把握できるのかもしれませんが、本件各投稿動画自体には、本件動画を引用する記載はなく、本件各投稿動画は、乙3記事が存在しているか否かに関係なく独立に閲覧可能である状態であることから、適法に「引用」されたものではないと判断されました。
本件各投稿動画のみを視聴することによって、本件動画を引用していることが把握できるのであれば、裁判所の判断も変わったのではないかと思われます。
弁理士:宮本昭一