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2022.08.09 国内知財情報

特許権侵害に対する損害賠償額は上昇傾向にある

特許権侵害に対する損害賠償額は上昇傾向にある

1.はじめに

令和元年5月10日成立の改正特許法のうち、令和2年4月1日に「損害賠償額算定方法の見直し」が施行されましたが、この「損害賠償額算定方法の見直し」は、特許権侵害による損害の額を増額する方向の改正であったと考えられます。
また、上記法改正の施行に先立ち、損害賠償額の算定に関連する知財高裁大合議判決が立て続けに2件出されました。それらの判決は、以後の知財高裁や下級審である東京地裁や大阪地裁の裁判実務、その他知財実務全般に大きな影響を与えることが予想されました。
そこで、上記法改正の時期の前後において、特許権侵害に対する損害賠償額に実際にどのような変化があったかを確認したところ、損害賠償額の上昇傾向が見受けられましたので、ここに紹介致します。
なお、上記2つの知財高裁大合議判決のうち、1件目の令和元年(2019年)6月7日知財高裁特別部判決(平成30年(ネ)第10063号「二酸化炭素含有粘性組成物事件」)は特許法102条2項及び3項の算定方法に関する判示がなされ、2件目の令和2年(2020年)2月28日知財高裁特別部判決(平成31年(ネ)第10003号「美容器事件」)では特許法102条1項の算定方法に関する判示がなされました。
 
 
 

2.損害認容額、和解金額の変化

(1)損害認容額

知財高裁が提供する特許権侵害に関する訴訟の統計(末尾の「出典情報」をご参照ください。)から、特許権侵害に対する損害認容額の情報として下表1の内容が確認できました。
 
表1:判決で認容された金額

判決で認容された金額について法改正前後における比較を行うために、平成26年~平成30年の期間を法改正以前の「前期」とみなし、平成31年~令和3年を法改正以後の「後期」とみなして、上の表1の内容に基づき、それぞれの期間における各金額の件数の比率を算出しました。その結果を次のグラフ1に示します。
 
グラフ1:判決で認容された金額水準ごとの件数の比率※1

※1:前期後期それぞれの件数合計値(前期:65件、後期:44件)で件数を割った値をパーセントで表示。
 
 
グラフ1によれば、判決で認容された金額水準ごとの件数の法改正前後の変化として、低い金額帯(1円~100万円)および中間の金額帯(1千万円~5千万円)の件数割合が減少し、高い金額帯(1億円以上)の件数割合が多くなっている(ほぼ倍増した)ことが読み取れます。
 
 
 

(2)和解において支払うことが約された金額

上記統計は、判決の場合とは別に、特許権侵害に関し裁判所の関与により和解に至った場合の統計情報も含みます。その情報から、特許権侵害に関し裁判所が関与した和解において支払うことが約された金額の情報として下表2の内容が確認できました。
 
表2:和解において支払うことが約された金額

和解において支払うことが約された金額について、上の表2の内容に基づき、前期及び後期それぞれの期間における各金額の件数の比率を算出し、その結果を次のグラフ2に示します。
 
グラフ2:和解において支払うことが約された金額水準ごとの件数の比率※2

※2:前期後期それぞれの件数合計値(前期:107件、後期:30件)で件数を割った値をパーセントで表示。
 
 
グラフ2によれば、裁判所が関与した和解において支払うことが約された金額水準ごとの件数の法改正前後の変化として、比較的低い金額帯(100万円~1千万円)の件数割合が減少し、高い金額帯(1億円以上)の件数割合が多くなっている(倍増)ことが読み取れます。
 
 
 

3.まとめ

このように、法改正前後において、判決で認容された金額と、裁判所が関与した和解において支払うことが約された金額の両方において、比較的低い金額または中間的な金額から、高い金額へと変化する傾向が見られました。実際、上記した2つの知財高裁大合議判決のうち、1件目の平成30年(ネ)第10063号判決では約3億4千万円の損害賠償額が認容され、2件目の平成31年(ネ)第10003号判決では約4億4千万円の損害賠償額が認容されています。また、知財高裁判決の最近の別の例として、令和3年(2021年)9月16日判決の令和3年(ネ)第10005号においては約7億円の損害賠償額が認容され、令和2年(2020年)2月28日判決の平成31年(ネ)第10003号においては約4億4千万円の損害賠償額が認容されています。
以上見てきたように、特許権侵害に対する損害賠償額は上昇傾向にあり、特許権侵害の差し止めが諸外国と比べて比較的認められ易いこととも相俟って、特許権の活用がかつて以上にさらに有効に行えるようになってきており、特許権を取得する意義はますます大きくなっていると言うことができます。また別の角度から見た場合には、第三者の特許権を侵害してしまうことのリスクに関しより慎重になることが必要となってきており、リスク回避のためのクリアランス調査の重要性がより増してきていると言うことができます。
 
 
弁理士:木村誠司
 
出典情報:
「特許権の侵害に関する訴訟における統計(東京地裁・大阪地裁、平成26年~30年)」、「特許権の侵害に関する訴訟における統計(東京地裁・大阪地裁、平成26年~令和3年)」(いずれも知的財産高等裁判所のウェブサイトより入手。)
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