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2022.05.09 国内知財情報

補正の実務 ~特許~ 判例紹介

補正の実務 ~特許~ 判例紹介

1.はじめに

日本特許法第17条の2第3項には、明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」といいます。)について補正をするときは、願書に最初に添付した明細書等(以下「当初明細書等」といいます。)に記載した事項の範囲内においてしなければならないことが規定されています(新規事項追加の禁止)。
 
新規事項の追加については、「ソルダーレジスト事件」についての知財高裁大合議判決(知財高判平20.5.30、平18(行ケ)第10563号)において、次のような基準が示されました。
 

・・・「明細書又は図面に記載した事項」とは、技術的思想の高度の創作である発明について、特許権による独占を得る前提として、第三者に対して開示されるものであるから、ここでいう「事項」とは明細書又は図面によって開示された発明に関する技術的事項であることが前提となるところ、「明細書又は図面に記載した事項」とは、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は、「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。

 
この判決は、新規事項の追加を従前よりも柔軟に判断する傾向へ導くものでした。特許庁においても、この判決の確定を受けて、平成22年6月に、特許・実用新案審査基準における新規事項の基準が改訂されました。
なお、現行審査基準では、当初明細書等に記載された事項の範囲内における補正として、以下が挙げられています。
(1) 当初明細書等に明示的に記載された事項にする補正
(2) 当初明細書等の記載から自明な事項にする補正
(3) 各種の補正
 
今般、特許庁において補正が新規事項の追加に該当すると判断された一方、知財高裁において一転して補正は新規事項の追加に該当しないと判断されたケースがありましたので、紹介します。今回のケースをケーススタディとして、補正が認められる範囲について理解が深まれば幸いです。
 
 
 

2.事件の説明

■ 事件

知財高裁判決令和元年(行ケ)第10165号審決取消請求事件
(判決日令2・11・5)
 
 
 

■ 事件の経緯

本件は、原告の特許出願(発明の名称:保温シート。以下「本件出願」といいます。)について出された拒絶審決(以下「本件審決」といいます。)に対する審決取消訴訟です。
 
本件出願にかかる発明は、人又はその他の動物である生体の表面の保温を行う保温シートに関するものです。
出願時の請求項1にかかる発明は次のとおりでした。
 
【請求項1】
人又はその他の動物である生体の表面の保温を行う保温シートであって、
フレキシブルに変更可能なシート状の基材と、
通気性が確保された不織布又は織布からなるカバー体とを備え、
前記基材における生体側の面に断熱材を含浸又は塗布することにより断熱面を形成し、
前記カバー体によって基材の断熱面をカバーした
ことを特徴とする保温シート。
 
代表図(図5)
 
特許庁での審査段階において、最初の拒絶理由通知に対して次の補正及び主張がなされました。ここでは、特に、「透光性を有する」の部分に注目してください。
 
● 補正の内容
【請求項1】
人又はその他の動物である生体の表面の保温を行う保温シートであって、
フレキシブルに変更可能なシート状の基材と、
通気性及び通水性が確保され且つ透光性を有する不織布又は織布からなるカバー体とを備え、
前記基材における生体側の面に断熱材を含浸又は塗布することにより断熱面を形成し、
前記カバー体によって基材の断熱面をカバーし、
前記カバー体は、上記断熱面に面状に密着された状態で接着又は縫合され、
前記断熱材には顔料として二酸化チタンが含まれた
ことを特徴とする保温シート。
 
● 補正についての出願人の説明及び主張
カバー体が通気性及び通水性を確保していることは明示的に記載された事項である。そして、図5に示された薄いシート状のカバー体13が通気性及び通水性を有していれば、透光性も有していることは、当業者にとって自明な事項といえる。
 
これに対し、審理段階における合議体(拒絶査定不服審判の合議体。以下、単に「合議体」といいます。)は、次のように判断しました。
 
織布又は不織布中の通気路や通水路が直線でなくとも通気又は通水することが可能であるのに対し、光は直進するから、通気性や通水性が確保されているからといって、織布又は不織布が「透光性を有する」とは直ちにいえるものではない。織布又は不織布が「透光性を有する」ことは、当初明細書等の記載から自明な事項であるとは言えない。
 
そして、合議体は、「透光性を有する」という事項についての補正が新規事項の追加に該当するとして、特許法第17条の2第3項違反である旨の拒絶理由を通知しました。
 
出願人は合議体のこの判断について争いましたが、合議体は拒絶理由を維持し、拒絶審決が出されるに至りました。
 
 
 

■ 判決の概要

判決では、合議体の判断が覆され、カバー体が「透光性を有する」との補正は新規事項の追加に該当しないと判断されました。理由は次のとおりです。
 
(1) ・・・本件当初明細書等には,本件カバー体が通水性を有する旨の記載(【0035】)は存するものの,「透光性を有する」との事項に対応する明示的な記載は存しない。
そこで,本件カバー体が「透光性を有する」との事項が,本件当初明細書等の記載から自明な事項であるといえるか否かについて,以下,検討する。
(2) 工業分野一般において,透光性とは,物質を光が透過して他面から出ることをいう(JIS工業用語大辞典第5版(乙1))ところ,本願発明の技術分野における「透光性」の用語が,これと異なる意味を有するものとみるべき事情は存しない。
そうすると,本件カバー体が「透光性を有する」とは,本件カバー体が光を透過させて他面から出す性質を有することを意味するものといえる。
(3) 次に,…本件出願時における織布又は不織布の透光性に関する技術常識について検討する。
証拠(甲23,24)及び弁論の全趣旨によれば,・・・本件出願よりも前の時点において,織布又は不織布に遮光性能を付与するために,特殊な製法又は素材を用いたり,特殊な加工を施したりするなどの方法が採られていたことからすれば,本件出願時において,織布又は不織布に遮光性を付与するためにはこのような特別な方法を採る必要があるということは技術常識であったといえる。・・・
以上検討したところによれば,織布又は不織布について遮光性能を付与するための特別な方法が採られていなければ,当該織布又は不織布は透光性を有するということが,本件出願時における織布又は不織布の透光性に関する技術常識であったとみるのが相当である。
(4) 以上を前提として,本件カバー体が「透光性を有する」との事項が,本件当初明細書等の記載から自明な事項であるといえるか否かについて検討する。
・・・本件当初明細書等には,織布又は不織布から構成される本件カバー体につき,遮光性能を有する旨や遮光性能を付与するための特別な方法が採られている旨の明示的な記載は存せず,かえって,本件カバー体が通気性や通水性を有する旨の記載(【0035】)や,本件カバー体の表面の少なくとも一部は本件カバー体を構成する材料がそのまま露出し,通気性や通水性を妨げる顔料やその他の層が形成されていない旨の記載(【0036】)が存するところである。
このような本件当初明細書等の記載内容からすれば,当業者は,本件カバー体を構成する織布又は不織布について,特殊な製法又は素材を用いたり,特殊な加工が施されたりするなど,遮光性能を付与するための特別な方法は採られていないと理解するのが通常であるというべきである。
そうすると,本件当初明細書等に接した当業者は,本件カバー体は透光性を有するものであると当然に理解するものといえるから,本件カバー体が「透光性を有する」という事項は,本件当初明細書等の記載内容から自明な事項であるというべきである。
(5) 以上によれば,本件補正は,本件当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものではなく,本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものといえるから,特許法17条の2第3項の要件を満たすものと認められる。
 
 
 

3.所感

本事件では、本件カバー体が「透光性を有する」との事項について、本件当初明細書等には明示的に記載されていませんでした。しかしながら、裁判所は、遮光性能を付与するための特別な方法が採られていなければ織布又は不織布が透光性を有することは技術常識であったと認定した上で、本件当初明細書等の記載内容からすれば遮光性能を付与するための特別な方法は採られていないと理解するものといえるから、本件カバー体が「透光性を有する」という事項は自明な事項であり、本件補正は新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項の追加には該当しないと判断しました。
このような判断については、新しいものではなく、現状の特許・実用新案審査基準にも沿った妥当な判断であると解釈できますが、補正がどこまで認められるか、またどのようなロジックで認められ得るか、などを検討するうえでは、非常に参考になる事案であると考えます。
 
補正の実務について疑問・質問などがあれば、お気軽に当法人にお問い合わせください。
 
 
弁理士:岩田誠
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