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2021.11.16 国内知財情報

特許審査の進歩性判断における阻害要因について

1.はじめに

日本特許庁の特許・実用新案審査基準では、進歩性の判断に関して、「3.2 進歩性が肯定される方向に働く要素」の1つとして、「3.2.2 阻害要因」が挙げられています(第III部 特許要件 第2章第2節 進歩性、参照)。
阻害要因とは、「副引用発明を主引用発明に適用することを阻害する事情があること」であり、「当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたことの論理付けを妨げる要因」です。
当法人での分析、経験によれば、特許庁での審査および審理において「阻害要因」が看過され、或いは「阻害要因」の存在を主張しても否定され、その後の訴訟の段階で、「阻害要因」の存在が認定されるケースは一定数存在しています。
このようなケースは、審査および審理において、いわば後知恵的な思考が強く働いている証拠であるとも言えると考えています。審査官および審判官において後知恵的な思考が強く働くほど、出願発明の特許性(進歩性)が過小に評価される可能性があります。ひいては、「阻害要因」が看過されることの要因ともなり得ます。
当法人では、継続してこのようなケースをウォッチし、審査官および審判官の認定に対して妥当な主張・反論を構築できるよう研究しています。
今回は、「阻害要因」に着目し、特許・実用新案審査基準での阻害要因に関する規定の概要を説明すると共に、知的財産高等裁判所で「阻害要因」の存在が認められて、特許庁の判断が取り消された判決例を紹介します。

 

2.阻害要因

(2-1)特許・実用新案審査基準での規定について

特許・実用新案審査基準は、「3.2.2 阻害要因」の欄(第III部 特許要件 第2章第2節 進歩性)で、「副引用発明を主引用発明に適用することを阻害する事情があることは、論理付けを妨げる要因(阻害要因)として、進歩性が肯定される方向に働く要素となる。」ことを規定しています。

 

(2-2)特許・実用新案審査基準に記載された阻害要因の例について

特許・実用新案審査基準は、阻害要因となる副引用発明に関して、次のような4つの形態を挙げています。
(i)  主引用発明に適用されると、主引用発明がその目的に反するものとなるような副引用発明
(ii) 主引用発明に適用されると、主引用発明が機能しなくなる副引用発明
(iii) 主引用発明がその適用を排斥しており、採用されることがあり得ないと考えられる副引用発明
(iv) 副引用発明を示す刊行物等に副引用発明と他の実施例とが記載又は掲載され、主引用発明が達成しようとする課題に関して、作用効果が他の実施例より劣る例として副引用発明が記載又は掲載されており、当業者が通常は適用を考えない副引用発明

 

3.知的財産高等裁判所で阻害要因に該当すると判断された
事例について

(3-1)平成28年(行ケ)第10071号 審決取消請求事件

なお、この事例は上記4つの形態のうち(i)に該当し得ると考えられます。

 

■知的財産高等裁判所の判断
[ 本願発明 ]

本願発明は,「すべてのアプリケーションに関して同じ保護を行うと,安全性は高くなるが,利便性が低下するという問題が生じる」という課題を解決するために,「当該アプリケーションが,前記機密識別子記憶部で記憶されている機密識別子で識別されるアプリケーションであり,送信先がローカル以外である場合に」「送信を阻止」するという構成を採用したものである。
このような構成を採用することによって,「機密事項を含むファイル等が送信によって漏洩することを防止することができ」,かつ,「機密識別子で識別されるアプリケーション以外のアプリケーションについては,自由に送信をすることができ,ユーザの利便性も確保することができる」という効果が奏せられ,前記課題が解決され得る。
このことに鑑みると,本願発明の根幹をなす技術的思想は,アプリケーションが機密事項を扱うか否かによって送信の可否を異にすることにある。

 

[ 主引用発明 ]

主引用発明は、ファイル管理プログラム及びファイル管理装置に関する。
主引用発明では,機密事項を扱うか否かによってアプリケーションを区別しておらず、主引用発明には、機密事項の保護という観点が存在しない。しかも,主引用発明は,入力元のアプリケーションと出力先の記憶領域とにそれぞれ安全性を設定し,それらの安全性を比較してファイルに保護を施すか否かの判断を行うものである。このため,同じファイルであっても,入力元と出力先との安全性に応じて,保護される場合と保護されない場合とがあり得る
これらの点に鑑みると,主引用発明の技術的思想は,入力元のアプリケーションと出力先の記憶領域とにそれぞれ設定された安全性を比較することにより,ファイルを保護対象とすべきか否かの判断を相対的かつ柔軟に行うことにある。ここで,「入力元のアプリケーションの識別子」は,それ自体として直接的ないし一次的に「機密事項を扱うアプリケーション」を識別する作用ないし機能は有しておらず,上記のようにファイルの保護方法を求める上で比較のため必要となる「入力元のアプリケーション」の安全性の程度(例えば,その程度を示す数値)を得る前提として,入力元のアプリケーションを識別するものとして作用ないし機能するものと理解される。

 

[ 本願発明と主引用発明との相違点 ]

本願発明の機密識別子記憶部では,機密アプリケーションを識別する機密識別子が記憶されるのに対し,主引用発明の保護方法データベースでは,機密事項を扱わないアプリケーションの識別子も記憶されるという相違点が存在する。

 

[ 阻害要因 ]

相違点につき,主引用発明から本願発明の構成に至るためには,主引用発明の保護方法データベースにおいて,同アプリケーションが扱うファイルの外部への送信等を絶対的に禁止するなど,入力元と出力先との安全性の比較の余地を排するものとすること、のように構成を変更することが必要である。
しかし,前記のとおり,主引用発明の技術的思想は,入力元と出力先とにそれぞれ設定された安全性を比較することにより,ファイルを保護対象とすべきか否かの判断を相対的かつ柔軟に行うことにある。これに対して,上記のように主引用発明の構成を変更することは、主引用発明の技術的思想に相反することは明らかである
よって,主引用発明から本願発明の構成に至ることには阻害事由がある。

 

[ 結論 ]

上述のように、主引用発明から出発して本願発明の構成に至ることは容易に想到可能であるということはできない。

 

(3-2)解説

上記の審決取消請求事件では、副引用発明については言及されていませんが、特許・実用新案審査基準に挙げられた阻害要因の4つの形態のうち、(i)に関連する事例であると考えられます。つまり、「主引用発明の技術的思想に相反すること」は、「主引用発明がその目的に反するものとなること」の阻害要因に該当すると考えられます。
今回は、阻害要因の4つの形態のうち(i)に該当し得るものについて紹介しましたが、引き続きウォッチし、興味深い判決が出れば紹介させて頂く予定です。

弁理士:安藤 博輝
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